シャドウとナックルズは、ある日突然、「◯◯しないと出られない部屋」に二人で閉じ込められてしまった。
「くそっ、なんなんだ、この部屋は」
ナックルズが扉や壁をあちこち殴るが、扉も壁も、不思議とヒビひとつ入らない。
シャドウは平静を装いながら周囲を見渡していたが、本心は混乱と緊張の中にいた。
(こ、これは⋯⋯噂で聞いた事がある、ごくまれに恋人同士が閉じ込められる事がある、“幻の部屋”といわれるものか⋯⋯!?)
都市伝説的に囁かれる不思議な部屋の話を、シャドウは耳にした事があったのだった。
「落ち着け、ナックルズ。この部屋は⋯⋯その、ただ滞在している分には、なんの危険もないはずだ」
「うん⋯⋯?シャドウお前、この部屋の事、何か知ってるのか?」
ナックルズが振り返って、不思議そうにシャドウを見つめる。
シャドウは動揺を悟られないように、さりげなく視線をそらし、素早く思案した。
(◯◯しないと出られない部屋。恋人同士で閉じ込められる。文脈から推察するに、恐らく、◯◯の中の言葉は⋯⋯“キス”。つまり、この後の僕のナックルズへの説明次第では、僕はナックルズと合法的にキスができる流れになる。しかし⋯⋯)
高速で思案を続ける。
(危険な賭けでもある。部屋の仕様を言い訳にして、ナックルズにキスを強要するというのは、無論卑劣なやり口だ。僕の下心が伝わってしまえば、ナックルズに嫌われてしまう危険性がないともいえない)
そこまで考え、さらに思案する。
(そもそも、◯◯に入る言葉がキスだと仮定して、どこにどうキスしなければならないという制約があるのかどうかだ。手や頬、おでこにキスするだけで条件が満たされる可能性があるのであれば、わざわざいきなり口や胸や⋯⋯へそ⋯⋯あるいは⋯⋯下半身にキス⋯⋯などするのは、やはり、ナックルズにあらぬ疑念を抱かれる可能性が高いか⋯⋯?)
シャドウ鬼気迫る形相で思案を続ける。
流石にナックルズが違和感を抱き、不安げな顔でシャドウに見入る。
「おい、シャドウ、どうした⋯⋯。この部屋の事、何か知ってるのかよ」
「ハッ?!」
シャドウはナックルズの質問に答えず、目を見張り、うめき声を上げた。
(待て。噂によるとこの部屋にいる間は、時が止まっている──つまり、永久にこの部屋にとどまる事も出来るという事だ。キスをしなければ、僕はナックルズと永久にこの部屋で共に過ごせるという事になるんじゃないのか⋯⋯?!)
シャドウは愕然とした表情で、両腕で顔を押さえ、膝から崩れ落ちた。
「なんという⋯⋯究極の選択⋯⋯!」
(キスをするか。するなら、どこにキスするように誘導するか。そして、キスをせずに、永久にこの部屋でナックルズと共に過ごすか⋯⋯)
シャドウはひざまずき、必死で思案したが、どうしても結論が出ない。両拳で床を叩いて叫んだ。
「くそっ!僕に選べというのか!よくもここまで残酷な選択肢を⋯⋯!」
「なんなんだよ、一体⋯⋯」
ナックルズは全く理解できずに渋面でシャドウを見下ろした。
それから、扉の上に書かれた、「◯◯しないと出られない部屋」という文字を見て、腕組みをして考え込んだ。
「フン⋯⋯ここに書いてる事が本当なら、何かをすれば、部屋から出してもらえるって事か?◯◯⋯⋯二文字か。うーん⋯⋯」
ナックルズはシャドウをチラリと見て、それからシャドウをぎゅっと抱きしめた。
「ハグ、ってのは、どうだ?」
──ピンポーン
クイズ番組で流れるような、安っぽい正解音が流れ、扉があっさりと開いた。
どうやら、◯◯に入る文字は、二文字であれば、なんでもいいらしい。
シャドウはポカンとして扉を見つめた。
ナックルズはニカッと笑ってシャドウを立たせようとした。
「ウワアアアアン!」
シャドウは大の字に寝転がって子供のような泣き声を上げた。
ナックルズはよくわからなかったが、泣き叫ぶシャドウを無理やり担ぎ上げ、今日の晩ごはんは何を食べようかなと思いを巡らせ、部屋を後にした。