第16話解説です。
ナックルズは第1話から、随分多くの受難を身に受けてきましたが、ここでようやく本来の姿──必要とあらば、みずから外の世界へも足を踏み出す探検家(あるいは戦士)の姿──へ戻り、シャドウを安心させます。
キュイは探検に誘われますが、身を引きます。少し前に賢者として聖母の戦いに従軍したキュイですが、本来のキュイは観察者。誰側の陣営でもないからです。
冥界の断罪者シャドウは、聖母の誘いを喜んで受け、同行を決意します。しかし、夜の試練(聖母と同じ寝床に入る)で、自身の抱える欲望と対峙します。
聖母の匂いで、「触れたい」「もっと近づきたい」「その先にある何か」を求め始め、抑制できなくなってしまう。
(ここでの試練は、いわゆる神話的な「性の誘惑」「堕落への誘い」を書いたシーンではありません。シャドウが求めていたはあくまで「安心」「帰属」「魂の帰郷」です。それを求めた結果の副作用として、「性欲」が生まれてしまっただけ。試練ではありますが、「聖母を傷つけないための試練」であって、「性欲=悪・堕落」として書かれているわけではないところに、古典神話との違い、現代神話的な価値観が表れていると思います)
とにかく、自身の欲望に恐怖を感じたシャドウは、悩んだ末、翌日、天使ソニックを無理やり旅に同行させます。
自分ひとりでは欲望を制御できないので、天使を物理的な壁にして、聖母を守ろうとしているのです。
「下腹がイライラする」
とうとうシャドウは腹の中にたまっていた欲望を天使に向かって吐露します。ここで初めて、シャドウは明確に「自分は聖母に向けて性欲を抱いている」と宣言します。
ソニックはシャドウが抱えている恐怖──「二人っきりになるのが怖い」=「欲望を制御できない自分自身を恐れている」──を理解し、不満を抱えながらも、辛抱強く二人の間に留まって見守ります。
そして聖母の主導で遺跡に入る事で、三人の間に再び秩序が戻りますが、天使と断罪者が仲違いしたせいで、再び試練がやってきます。
暗闇の中で、聖母と断罪者は二人っきりになってしまう。
ここで致命的なすれ違いが発生します。
聖母は、隣りに座る事を許可し、匂いを嗅ぐ事を許可する。
断罪者は、隣りにすわる許可→匂いを嗅ぐ許可と、段階的に許可を踏む事で、それ以外の事も包括的に許可されたと思い込んでしまう。そして、強く抱きしめ、押し倒した状態で匂いを嗅ぎます。
この時断罪者は聖母の顔を見ていません。だから、聖母がどんな表情をしているかわかっていない。
聖母は、以前自分の身に起きた事を身体が覚えているせいで、恐怖に囚われてしまいます。

元々、聖母は母性・受容の神。受け止める性質。断罪者の抱擁を拒めません。恐怖・拒否感と、受容の性質が誤作動を起こし、拒む事も受け止める事もできず、動きを停止してしまいます。
そこへ天使のソニックがやってくる。
天使はトリックスターです。重く停滞するその場の空気に風を送り、強制的に動かします。
天使はシャドウの行いを断罪しようとしますが、天使は断罪者ではないので、うまくいきません。その間に、聖母が再起動し、起きた事の全てを受け止めようとします。
わざと顔に泥を被り、表情を隠し、断罪者が裁かれないように、暗闇の中で起きた事をなかった事にします。
天使は二人を見守るだけで何もできません。断罪者も、聖母の受容の力に包まれ、考える力を失います。
崩壊しかけた関係が、聖母の受容の力によって包み隠され、不穏な状態のまま、第17話に続きます。