第20話解説です。
第20話は「冥界下りを終えた英雄の再誕神話」です。
英雄譚では、通常、英雄は戦いに勝利して聖母・女神の元へ帰還します。しかしTerraでは、傷付き、無力化し、赤子となって聖母の元で帰還・再誕します。
前半、天使のソニックは、シャドウを探して世界中を駆け巡ります。
シャドウは消息不明。これは神話的には、社会からのつながりを一切失った、死者の状態です。
冥界から去ったシャドウの身体は、地上に戻って来ているはず。でも社会とのつながりが一切立たれて消息不明になる。魂が喪失状態になっています。
ソニックはシャドウの居場所について考え、答えにたどり着きます。
(⋯⋯ないんだ。あいつの帰る場所)
ここで、Terra世界でのシャドウの「元々の居場所」について少しだけ描写があります。
戦闘兵器として生み出され、利用され、大切な存在を失い、帰る場所も持たないままに彷徨ってきたことを。
原作における、アークでの事やマリアとの事がここで少し示唆されていますが、アークが存在したかどうか、マリアがいたかどうか、マリアとどういう関係だったかどうかは、Terraでは一切これ以上の描写はありません。
Terraのシャドウは、マリアとの関係や過去すら原作からほとんど切り離された、真に孤独な存在です。帰属する場所がない。過去もない。心の置き場所すらない。
ナックルズに出会い、惹かれるまで、Terraのシャドウは、「帰る」という概念すら持つことができなかったのです。
だからこそナックルズと魂の共鳴を起こし、聖母=故郷という構造が完成するのです。
そしてソニックは気付きます。シャドウはナックルズの側にいる。そして、ナックルズもその事をわかっていると。
「お前自身の心を、お前が守ったっていいんだぜ」
ソニックは友として、ナックルズの背中をそっと押します。そして、ナックルズは、ただ待つだけではなく、自らの意志で、シャドウの魂を迎えに行きます。
聖域である島の、森の中にある祠は、無縁の地(アジール)です。不可侵の聖なる避難所。傷付いたシャドウの魂を守る、小さな生と死の境目にあたる場所です。
シャドウは傷付き、絶望し、ナックルズの前から、この世界から消えようとしましたが、自己断罪に失敗した断罪者は、力を失い、自己消失にも失敗しました。そして、傷付いた、ただの黒い小動物と化したシャドウの魂は、結局聖母の気配を求めて、聖域の中の小さな祠へ逃げ込んでしまうのです。
ナックルズの側にいたい。でも近づけない。自分にその資格はない。だから、祠に隠れて、ただ震えるしかできません。
そこへナックルズが迎えに来ます。激しい雨が二人を断絶させます。この雨は二人にとっての最後の試練です。雨音が声を遮断してしまう。だから、自分の声で、相手に届く声で、はっきり意志を表明しないといけません。
「食えよ⋯⋯俺の腕」
「⋯⋯帰ってこい」
ナックルズはシャドウに向かって、帰還の許可を出します。存在の肯定。受容。聖母の愛。
「君が欲しい」
シャドウはようやく、衝動でもなく暴走でもなく、己の言葉で欲望を聖母に向けてはっきりと表明します。
ナックルズは、否定も肯定もしません。しかし、少しずつ前へと歩み出ます。言葉ではなく、行動でシャドウの存在を肯定しようとしています。
大雨の中、シャドウは心境を吐露します。罪の告白。しかし、ナックルズは母性と受容の神。断罪はしません。
祠の前まで自分の足でやってきたナックルズですが、ここでナックルズはシャドウを待ちます。動かない。ただ待つ。受け止める。
「君を壊してしまうのが怖い」
「俺は怖くない」
そうして、シャドウは自分の意志でナックルズの胸に飛び込み、魂の帰還を果たします。
そして、シャドウは島の小屋の中で、子猫のように小さく丸まり、ナックルズの指をしゃぶっている。
英雄の再誕です。
傷付いた英雄が、赤子となって、聖母の元へ帰還する。指しゃぶりは魂の授乳です。シャドウは赤子のような無垢な魂で、ただただ聖母の母性を受け取っています。
そしてソニックは、「おかえり、シャドウ」の物語で、ルージュの言葉を受けて覚醒し、一段階成熟した天使へと変身しました。無邪気に指しゃぶりをするシャドウを眺めながら、静かに、今後も二人を見守り続けていこうと決意を固めます。