ジークは、クアンタの拠点に戻り、ソニックを探そうと、近くにいた衛兵に話しかけようとした。
衛兵が立っている手前の通路にナックルズがいた。
ナックルズはジークを見ると、くるりと背中を向けた。
「ナックルズ」
ナックルズは動かない。
「⋯⋯ナックルズ!」
ジークは駆け寄って、赤い背中に向けて語りかけた。
「俺が悪かった。シャドウの愛を真っ向から受けられるのに、自分の意思ではっきり拒み、なお堂々としているお前を見て、嫉妬して、わざと意地悪な事を言ってしまった」
ナックルズは動かなかった。しかし、首だけ少し回し、低い声で言った。
「俺だって、シャドウとの事で、何も考えてないわけじゃねぇぜ」
「ナックルズ⋯⋯」
「あれからシャドウと話してねぇ。シャドウは俺に近付きもしねぇ。いい加減、愛想を尽かされたかもな」
ジークはナックルズに駆け寄り、肩をつかんでいった。
「そんなわけあるか。シャドウは自分の命よりも、お前の事が大事なんだ。だからこそ⋯⋯お前を求め、我慢しきれずに寝込みを襲い、拒まれ、本気で自分を責めているんだ」
「⋯⋯どうすりゃ、いいんだ」
ナックルズの瞳がゆれる。ジークは背中をさすって言った。
「シャドウの事を、どう思ってるんだ」
「⋯⋯二度も殴ったのは、やり過ぎたかもしんねぇ。あいつ、泣いてたんだ。でも、俺は⋯⋯」
ジークはうつむくナックルズの肩を抱き、力強く言った。
「お前は悪くない。シャドウだって⋯⋯少し、抑えが効かなかっただけだ。シャドウはどこにいる?」
「多分、今は倉庫に⋯⋯」
「来い。話し合え。何度間違ったって、お前たちなら必ずやり直せる」
ジークは、ナックルズの手を引いて倉庫群へ向かった。巨大な倉庫の立ち並ぶエリアで、シャドウを探し回る。
いくつかの倉庫を回り、ようやくとある倉庫内で薬品類の在庫チェックをしている黒いハリネズミを見つけて、二人は駆け寄った。
シャドウはジークの背後にナックルズがいるのに気付き、逃げ出そうとした。
すかさずジークが胸のプリズムに手をかざし、周囲に赤いバリアを張った。
「逃げるな。お前のせいで、ナックルズが一人枕を濡らす羽目になってもいいのか?」
シャドウが鋭い目をして振り返り、ジークの首をつかんだ。
「グェ!」
「黙れ。僕はナックルズに対して、責任があるんだ」
「シャ、シャドウ!やめろ⋯⋯」
ナックルズが飛び出しかけたが、ジークはシャドウに首をつかまれ、身体を宙にぶら下げられたまま制止した。
「ナ、ナックルズと話し合え⋯⋯。お前はナックルズを守りたいんだろう。⋯⋯ならば、少し過ちを犯したくらいで⋯⋯恐れるな。誓いを⋯⋯貫け⋯⋯命に変えても、だ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
シャドウは、鋭い目をしたまま、ゆっくりとジークから手を離した。
「⋯⋯お前に言われなくとも⋯⋯」
「ならば、ここで覚悟を見せてみろ。今すぐナックルズと話し合え」
ナックルズが黙ってシャドウに歩み寄った。
シャドウはナックルズを少し見て、うつむき、身体をそらし、立ち尽くした。
「シャドウ。俺の事が嫌いになったのか?」
早々にナックルズがまっすぐシャドウに問いかける。
「違う。僕は⋯⋯この間も言ったが⋯⋯どうしても、我慢できない。君の全てが欲しい。永遠に。僕のこの気持ちが、結局君を傷つける事になる。だから⋯⋯」
「右手なら、いつでも噛ませてやるぜ」
シャドウの目の色が変わった。シャドウが両手を前に出す。ナックルズが右手を出すと、目にも止まらぬ速さでシャドウはナックルズのグローブを脱がせ、右手にしゃぶりついた。シャドウはナックルズの右手をしゃぶりながら言った。
「僕は右手以外も欲しい。フガッ、過ぎた欲望だというのは、わかっている。しかし⋯⋯」
「言ってくれれば、その時、噛ませてやるかどうか、俺が決めるから⋯⋯」
「ムグ、噛むだけじゃない。嗅いで、舐めて、しゃぶって、こすって、入れたいんだ」
「お⋯⋯おう。えーと⋯⋯じゃあ、言ってくれれば、別に⋯⋯」
(ナックルズがつい殴ってしまった事を俺でも理解できてしまう程の、強大な欲望だ)
ジークは口出しすべきかどうか、ジリジリと神経をすり減らしながら見守った。
「フグッ、今すぐ君が欲しい。首と、胸と、おへそと、尻尾もだ」
「お、おう。いいぜ。じゃあ、ここで⋯⋯」
ギラギラした目つきで、右手をしゃぶったまま、シャドウがナックルズに迫った。
ジークは慌てて二人の間に割って入った。
「ちょっと待て。お前ら、ここでおっぱじめるつもりか?シャドウ、お前は今、首や胸が欲しいと言ったな。そこをただ噛むだけか?まさか、その流れで本番⋯⋯つまり、“入れる”つもりじゃないだろうな」
シャドウの目が泳いだ。そしてジークに視線を戻し、真顔で言った。
「僕は欲しいと言って、ナックルズはいいぜと言った。つまり、何も問題は⋯⋯」
「あるだろ!許可した内容を拡張するな!ナックルズは特定の部位を噛んでもいいと言っただけだ!入れていいとは明言してないだろうが!」
ナックルズが動揺してシャドウとジークを交互に見た。シャドウはしばらく動きを停止し、ジークに向かって言った。
「お前は僕に逃げるなと言った。そして僕はナックルズに許可を取り、触れあっている。何も問題はない。後の事は、僕とナックルズ、二人で話し合いながら進める。ジーク、お前はここから速やかに立ち去れ」
「だ、駄目だ。お前が何をしようとしているのか、ナックルズは理解しきれていないだろう。またナックルズに殴られたいのか?何をしたいのか、きちんと明言しろ。正々堂々と、真正面から捧げ合え」
シャドウが黙ってジークをにらみつける。ナックルズは落ち着かない様子で二人を見ながら、少し考える仕草をした後、ジークに向かって言った。
「なら、ジーク⋯⋯お前がそこで見ててくれよ。シャドウが何をして、俺が何を許可したのか。それなら、俺とシャドウがこの後揉めても、何が起きたかお前が見てるんだから、すぐに仲直りできるだろ」
「え?」
ジークは真っ白になって固まった。シャドウが殺気を駄々洩れにしてにらみつけてくる。
ジークは出歯亀がしたいわけじゃない。二人が真っ向から誓いを立てて、正面から契り合う約束を交わしたなら、当然すぐに退散するつもりでいた。
しかし、シャドウは今からナックルズに、具体的に何をしたいのか、どうも明言したがらないようだった。言えば断られる可能性がある事を理解しているからかもしれない。
「ううっ⋯⋯」
ジークは脂汗をかいて後ずさった。
シャドウは明らかに本番まで持ち込もうとしている。ナックルズは、あくまでどこを噛ませるのかという話でしかないと思い込んでいるらしい。
(俺はシャドウの邪魔をしたいわけじゃない。お互い愛し合っているんだ。存分に契り合えばいい⋯⋯しかし、ナックルズはシャドウの意図を正確に理解していない⋯⋯)
ジークは困りに困って、ようやく言った。
「ナ⋯⋯ナックルズ。お前は、シャドウの望みを受け止めたいという事か?このまま触れ合っても、構わないと⋯⋯」
「お前が見てるなら、別にいいぜ」
ナックルズはあっさりと頷いた。シャドウが舌打ちしてナックルズの背中に腕を回した。
「なら、ジーク。そこで黙って見ていろ。ナックルズ、全て僕に任せてくれ」
そう言うと、シャドウはナックルズをその場に寝かせ、そのまま──
勢いよくナックルズとそれを始めてしまった。
ジークは両手を口に当てて後ずさった。
(うっ⋯⋯うわぁ、うわぁあぁぁ)
ジークは逃げられなかった。目も離せない。
目の前で運命の番が愛し合っている。理想の二人。理想の契り。理想の──
(あああ⋯⋯、そ、そんなところ⋯⋯そ、そんなに激しく⋯⋯あああ⋯⋯)
しばらく経って、ようやくシャドウの動きが落ち着き始めると、ナックルズが上体を起こし、
「このっ!」
シャドウを横から殴りつけた。
シャドウの身体が転がり、壁にぶつかって止まった。
夢中で二人に見入っていたジークが、遅れて反応し、ナックルズへ駆け寄った。
「あ、ナ、ナックルズ⋯⋯落ち着け、ええと⋯⋯か、身体は大丈夫か」
「フーッ、フーッ」
ナックルズは興奮して歯を食いしばり、シャドウをにらみつけていたが、ジークの腕を振りほどき、走って倉庫から飛び出して行った。
「ナックルズ!」
慌ててジークが追いかける。シャドウは追ってこなかった。
ジークはナックルズを追いかけたが、追いつけそうもないので、結局胸のプリズムに手を当て、赤いバリアを発生させ、ナックルズを止め、ようやく追いついた。
「ナ⋯⋯ナックルズ。お、落ち着け⋯⋯大丈夫か⋯⋯?」
「フーッ、フーッ」
「ナックルズ。お、怒っているのか⋯⋯?」
ジークがナックルズの肩に手をやったが、ナックルズはその手を払いのけた。ジークはたじろぎ、後ずさった。しかし、ナックルズはその場から動かなかった。
しばらく経って、ナックルズが言った。
「⋯⋯くそ、また殴っちまった」
「ナックルズ⋯⋯」
ジークはナックルズの顔を見つめた。怒っているというより、迷っているようだった。
「⋯⋯シャドウにされた事が、嫌だったのか?」
「⋯⋯⋯⋯」
ナックルズは虚空をみつめて考えた後、大きく息を吐いて言った。
「わからねぇ。あいつにごちゃごちゃ触れられると、身体が変になる。それがいいのか、悪いのか⋯⋯」
「シャドウの事を、怒っているのか?それとも⋯⋯」
「⋯⋯⋯」
ナックルズは目を閉じて頭を揺らし、首を鳴らした。そしてジークの方を見て言った。
「さぁな。でも、また殴っちまったからな。俺はシャドウのところへ戻る。後はもう、問題ねぇよ。巻き込んじまって悪かったな」
あっさりした表情でナックルズが言った。
「そう⋯⋯か。そうだな。二人でゆっくり話し合え。じゃあな」
駆けていくナックルズの背中を見届けた後、ジークはゆっくりと長めのため息をついた。
ジークは空を見上げた。一度滅亡したこの世界の空は、相変わらず赤黒く淀んでいる。赤黒い淀みの隙間から、傾いた月が見える。
(もうすっかり夜だな)
ジークはセントラルシティのカフェでの誓いを思い出した。
“俺も逃げない。ソニックに会おう。決着をつける。俺の気持ちと、俺のこれからの生き方についてだ”
拠点の中央の、衛兵が集っているエリアに戻った。
側近を呼び出し、各種業務の報告を聞く。
必要な指示を出して、周囲を見渡した後、側近にソニックの居場所を尋ねた。
「付近の哨戒へ行ったようです。最近は拠点付近に化け物はいませんから、遠くのエリアを回っているかもしれません」
ジークは胸のプリズムに手をかざし、魔法陣を召喚した。魔力を消費して、遠方の気配を探る。
遠方の渓谷に、高速で移動するソニックと、強大な化け物の気配を感じ取った。
テレポートの魔法を使い、渓谷へ身を走らせた。
クアンタの拠点から遠く離れた渓谷で、ソニックは巨大なヘドロ状の化け物と戦っていた。
「ったく、何日シャワーをサボったら、そんな見た目になるんだ?デートの時、手も繋げないだろ、そんな身体じゃあ!」
ヘドロの化け物に向かって軽口を叩く。化け物の身体から、ヘドロにまみれた長い触手が伸びて、ソニックに襲い掛かった。
「触手までドロドロなのかよ!ちょっと待ってくれ、触らずにお前を倒せる方法を考えてるんだ⋯⋯うわっ?!」
突如、下から赤い光の柱がのび、触手が焼き切られた。
ソニックが後ろへ飛びのくと、さらに光の柱が立ち並び、ヘドロの化け物の身体を貫き、焼き払った。
「気が合うね、ちょうど俺が考えてた理想の戦い方だ」
ソニックはニヤリと笑い、立ち上がって両手を広げた。はるか後方の崖の上で、すまし顔でジークが胸元に手をかざし、暁光を操るのが見えた。
「ジーク、サンキュー。あのまま戦ってたら、音速のヘドロネズミになっちまうとこだったぜ」
ヘドロの化け物を完全に焼き払った後、ソニックはジークの元へ飛んでいき、隣りに着地した。
軽くウィンクをして、肩に手を置く。ジークはその手を振りほどき、ソニックにまっすぐ向き直って言った。
「決着をつけに来た」
ソニックが目を丸くする。それから、肩をすくめて言った。
「OK、ジーク。こないだのこと、まだ怒ってるのか?言ったろ、俺はお前を馬鹿にしてなんかいないし⋯⋯」
「茶化すな。俺は本気だ。⋯⋯はっきり言え。お前は俺の事を、どう思っているんだ」
ソニックは口を閉じた。
ジークがまっすぐソニックの目を見つめる。
ソニックは姿勢をただし、そっとジークの手を取り、ジークを見つめ返して言った。
「ジーク。俺はお前の事が好きだ。お前の心が欲しい。できればもちろん、身体だって。キスをして、抱き合って⋯⋯毎日、愛の言葉をささやき合いたい」
ジークはじっとソニックの目を見つめた。
透き通った緑の瞳。
世界を何度も救ってきた、勇ましく、仲間想いな、心優しい英雄の瞳。
ジークはゆっくりと目を閉じ、深呼吸した後、もう一度ゆっくりとソニックを見つめ返し、静かに言った。
「俺は、お前の言葉を受け取る事はできない。俺には世界滅亡の咎と、世界創世の責務がある⋯⋯お前の番になる資格は⋯⋯俺には、ない」
痩せた月がほのかに光る、赤黒い空の下で、ソニックとジークは見つめ合った。
ややあって、ソニックが言った。
「俺も一緒に、お前の背負ってるものを背負う、って言ったら⋯⋯?」
ジークは静かに首を振った。
ソニックは何も言わなかった。
生ぬるい風が二人の間をすり抜けていった。
ジークは目を閉じ、ソニックに握られている自分の手を引き抜こうとした。
抜けない。
力を入れて、引き抜こうとする。ソニックの手は頑として動かない。
「⋯⋯ぬ⋯⋯んぐ⋯⋯!」
ジークが腰を入れて手を引き抜こうとする。ソニックの手はびくともしない。
「ジーク」
ソニックが静かな声で名を呼んだ。
ジークの動きが一瞬ピタリと止まる。
それでも、ジークはもう一度自分の手を引き抜こうとした。
「ジーク」
もう一度ソニックが名を呼ぶ。
ジークは必死に自分の手をにらみつけ、腰に力を入れた。
「ジーク。こっち向けよ」
ジークの肩がビクッと揺れる。
ジークは自分の手を見つめたまま、動けなかった。
「⋯⋯⋯⋯」
「ジーク」
もう一度名を呼ばれる。ジークが怯えた顔でゆっくりと顔を上げた。
「こっち、向けよ」
ソニックが優しく言った。ジークは目を背けて言った。
「なんで⋯⋯」
「お前の顔が見たいんだ。それだけだよ」
ジークは思わずソニックの顔を見た。
かすかな月の光の下で、ソニックが微笑んでいる。
「あ⋯⋯⋯」
ジークは動けなかった。
自分の本当の気持ちを、ジークはもう知っている。
「⋯⋯⋯⋯い、一度⋯⋯」
ジークは言いかけ、飲み込んだ。
ソニックの手にまた少し力がこもる。
ジークはもう一度顔を上げ、震える声で、つぶやいた。
「一度だけ。一度だけなら、⋯⋯⋯お前に、抱かれたい⋯⋯⋯」
沈黙が生ぬるい風と共に流れていく。
二人はしばらく見つめ合った。
それから、悲しげな顔をしたソニックが、ゆっくりと目を閉じて、顔をそむけた。
「⋯⋯俺は、お前の身体だけが欲しいんじゃない。心が欲しい。一度だけ抱いて終わりなんて、俺はそんな関係、望んじゃいない⋯⋯」
ジークは静かに終わりを受け入れた。涙が頬をつたう。
(これでいい。決着はついた。⋯⋯俺は一人で、創世のためだけに生きていく)
ジークは涙をぬぐい、息を吐くと、今度こそ覚悟して、自分の手を引いた。
「⋯⋯⋯⋯」
抜けない。
腰を入れて、逆の手でソニックの手をつかみ、もう一度引き抜こうとする。
びくともしない。微塵も動かない。
「ぬっ、ぐっ、ふんっ、んぐうぅ」
何度も引き抜こうとする。それでも動かない。
ジークは迷った。
「離せ」と一言言ってしまえばいい。殴ってでも拒めばいい。あるいは、プリズムの魔法を放って、強制的に引きはがしてしまうか。
(⋯⋯⋯できない)
離れたくない。
まだ終わらせたくない。
一度だけでいい。これから一人で生きていくために、たった一度でいいから、ソニックに抱かれたい。
うつむいたまま、ジークは全身の力を抜いて、立ち尽くした。
それから、ふと気付いた。
(何故、ソニックは⋯⋯⋯)
ソニックの足元を見る。やっぱりソニックは動こうとしない。
ジークは目を泳がせ、考えた。
(何故⋯⋯こんなにも俺の手を離そうとしないんだ)
顔を上げ、つい口に出して尋ねようとした。
「おい、ソニック⋯⋯⋯」
「わかったよ、ジーク」
ソニックが明るい声で言った。
ソニックの顔を見る。
いつもの笑顔の、明るいソニックだった。
ジークの頬が少し緩む。すると、ソニックが顔を近づけ、もう一度真顔になって言った。
「一度だけお前を抱く。でも、俺は諦めない。今夜一度だけお前を抱いたら、また明日⋯⋯最初からもう一度、お前を口説き直す」
ジークが目を丸くした。
ソニックはジークの背中に手を回し、そっと唇にキスをした。
そうしてその晩、ほのかな月明かりの下の、広い崖の上で、ソニックとジークはたった一度の契りを結んだ。
翌日。
ナックルズ、シャドウ、ソニックは、エンジェルアイランドに帰っていった。
ナックルズがマスターエメラルドの様子を見に行くので、シャドウとソニックも一度一緒に戻ろうという事になったのだった。
ジークは転送装置に向かうナックルズとシャドウを見た。
「マスターエメラルドの様子を見て、小屋の掃除して、フルーツを収穫して、ドライフルーツを作って⋯⋯おいジーク、用事が終わったらすぐ戻ってくるから、安心しろよ」
「ナックルズ、用事を終えたらいったん休め。僕も一度世界政府の地下施設へ戻るが⋯⋯いいか、無理せず、必ず休憩をいれるんだぞ」
いつもの二人の距離感だった。ジークは、心の底から安堵のため息をついた。
二人の側に立つソニックが視界に入る。ソニックがジークの視線に気付き、ウィンクを飛ばしてきた。
ジークは、気付かないふりをしてそっぽを向いた。
三人を見送った後、拠点を見回っていると、ナックルズのフルーツをいれていた籠が残されている事に気付いた。
(フルーツを収穫して、ドライフルーツを作ると言っていたな。この籠がないと作業が捗らず、困るだろう)
ジークは籠を担ぐと、急いで転送装置を使い、エンジェルアイランドに降り立った。
島についてすぐ、ナックルズの怒鳴り声が耳に入った。
ソニックの諫める声と、シャドウの怒鳴り声も聞こえてくる。
(また二人が揉めてるのか)
慌てて声のする方へ駆けていく。声は小屋の方向から聞こえてくる。
小屋の前にたどり着くと、そこには──
気絶して倒れた灰色のハリネズミと、怒り狂った顔のナックルズ、殺気を放つシャドウ、ナックルズとシャドウを必死で止めるソニックがいた。
「ハビシュ!どういう事だ!マスターエメラルドの事で、勝手に俺に黙って危ない事をしやがって!この野郎、なんとか言いやがれ!」
「ナックルズ。君は僕に黙ってハビシュと関わりを持っていたのか。どれだけ危険な事をしているか、わかっているのか?どけソニック、僕がハビシュにとどめを刺してやる」
「落ち着けって!ナックルズ、ハビシュもお前のためを思ってやったんだ。シャドウ、お前も⋯⋯ハビシュはナックルズを傷つけるつもりはないんだ、マジで⋯⋯あ、ジーク!」
必死で二人を制止していたソニックがジークに気付く。
「ジーク!手伝ってくれ!こいつら興奮して止まらないんだ、頼む、早く⋯⋯ジーク!」
ジークは胸のプリズムに手を当て、ナックルズに殴られて気絶したらしい、灰色のハリネズミの周囲に暁光のバリアを張った。
ナックルズとシャドウを落ち着かせ、ハビシュを介抱する。
ハビシュは目を覚ますと、ヘラヘラと卑屈な笑みを浮かべながら言った。
「怒らないで、ナックルズ。僕はうまくやったよ。あいつらを壊滅させてやった。世界はほんの少し綺麗になったよ。マスターエメラルドを複製するためのデータも、完全に消去してやった。これでいいんだ。世界は灰色。僕も壊れたまま。でも、僕はやれる事をやったし、リーダーには多分、褒めてもらえると思うんだぁ」
「俺に何も言わず、勝手な事しやがって⋯⋯」
ナックルズがそれでも怒りを抑えきれず、ワナワナと拳を震わせた。
ソニックがナックルズの肩を抱き、明るい声でフォローする。
「ハビシュは良かれと思ってやったんだよ。お前を怒らせるなんて、思いもしなかったんだ。大丈夫だって。お前に一度殴られたやつは、そこで学ぶのさ。殴られる前に、殴られない方法で、次はうまくやろうって」
ナックルズはゆっくり息を吐き、ようやく拳の力を抜いた。
シャドウはハビシュをにらみつけていたが、何も言わずに立ち上がった。
エージェントとして見るなら、ハビシュの行動に問題はないと判断したようだった。
そうして、シャドウとハビシュは世界政府の地下施設へと帰っていき、ナックルズはマスターエメラルドの祭壇へと戻って言った。
後にはソニックとジークが残される。
ジークは何も言わずに転送装置へ戻ろうとした。
ソニックが両手を頭の後ろに回し、気楽な調子で言った。
「さてと、俺一人だけ、暇になっちまったな。適当にそこらをブラついてもいいし、ダラダラ昼寝をするのもいいか」
ジークは少し考え、振り返らずに言った。
「何がダラダラ昼寝だ、音速の名が泣くぞ。どうせ暇なら、走り回れ。化け物討伐のために、クアンタの世界をな」
ソニックはニッと笑うと、ジークの手を取り、ウィンクしながら言った。
「仰せのままに。如何様にでもご命令を、師団長殿」
終