「ヤギミルク・パーティー」

ある日、シルバーは司令室で、シャドウと、とある敵組織をせん滅させる為の特殊破壊作戦に関する情報を共有し合っていた。

シャドウは大量のデータを的確に把握しながら、作戦の要点をシルバーに説明し、味方の情報端末に向かってデータを共有していった。

シルバーは思った。

(シャドウ・ザ・ヘッジホッグ……味方だから今は頼もしいが、もし敵に回ったとしたら⋯⋯恐ろしいやつ)

敵に対するシャドウの冷酷過ぎる程の攻撃性を知っているシルバーは、少し緊張した面持ちでシャドウを見つめた。

作戦実行前の小休止中。

シルバーは、ココアの入ったカップを手に、リフレルームのドアを開けた。

目の前には──

ソファの上に座るナックルズと、ナックルズの膝の上でうっとりとした顔で猫のように丸くなったシャドウがいた。

「あ⋯⋯えっ」

思わずシルバーは扉をしめた。

見てはいけないものを見た気がする。

⋯⋯というより、現実に存在していはいけない状況を見てしまったという気がする。

「あのクールなシャドウが猫みたいにナックルズの膝の上に⋯⋯?ハハッ、俺もちょっと疲れてるのかもしれないな」

疲れて意味不明な幻をみてしまっただけだ。そう思って、もう一度リフレルームの扉を開けた。

───今度は、

ナックルズの膝の上で、ナックルズの指をしゃぶりながらお腹をナックルズになでられてゴロゴロ悶えるシャドウがソファの上にいた。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

現実。

とりあえず幻ではないと理解し、仕方なくシルバーはそのままリフレルームに入った。

(えーと⋯⋯ナックルズって、シャドウとどういう関係だったっけ?俺の記憶では、どっちもソニックとはライバルっぽくて、もっと緊張感のある関係だったはずだけど⋯⋯なんで膝の上にシャドウが?)

シルバーは混乱しながら遠慮がちにチラチラとナックルズを見た。

「おう、座れよ」

なんでもないかのように、ナックルズが隣りに座るように視線で促す。

(え⋯⋯この状況で俺が隣りに⋯⋯?!)

促されるままにシルバーは、ナックルズが座っているソファの左側に座った。

シルバーが来たことに微塵も気付かず、シャドウはナックルズの指にむしゃぶりつきながら、お腹をさすられて気持ちよさそうに悶絶し続けている。

シルバーは、シャドウの表情を見て、何故かドキドキしてきた。

(き⋯⋯気持ちよさそう⋯⋯)

何故それをやっているのか、何故こうなったのか全くわからない。だけど、何故か目が離せない。

(な⋯⋯なんだこの気持ち⋯⋯?)

シルバーは、シャドウがむしゃぶりついているナックルズの指をじっと見た。そしてシルバーは、何故か口をぱくぱくして、シャドウの動きをなぞり始めた。

(例えば、俺もナックルズの指を⋯⋯⋯)

そこまで考えて、慌ててシルバーは目をそらし、持っていたココアを喉に流し込んだ。

(ば⋯⋯馬鹿野郎!俺は一体、何を考えてるんだ)

今は重要作戦実行前の大事な時間。おかしな事を考えてドキドキしている場合じゃない。

(っていうか逆に⋯⋯こんな時に二人でナニやってんだ、こいつら?!)

シルバーはココアのカップをくわえたまま、チラチラとナックルズの指とシャドウを見た。何故か自分の心臓は爆音を立て続けている。顔がほてって妙に熱い。

その時───

「スッキリしたか?」

ナックルズがシャドウに話しかけた。シャドウがすっと起き上がり、口をぬぐって言った。

「ああ⋯⋯いつもすまない。お陰で今回の作戦も冷静に実行できそうだ」

「いつもやってるのかよ、それ⋯⋯」

気付けばシルバーは無意識に突っ込んでいた。

シャドウがこちらを振り向いた。

そして、ようやくシルバーがいた事に気付き、白磁の陶器のような真っ白な顔色になった。

「シャ」

シルバーがシャドウに二言目を告げる前に、シャドウは疾風の如くリフレルームから逃亡した。

沈黙。

リフレルームには、堂々たる表情の戦士ナックルズと、気まずさで全身を硬くした超能力者シルバーが取り残された。

「悪いな。シャドウはたまに突然走って消えたり、突然俺に噛みついてきたりするところがあるんだ」

なんでもない風にナックルズが言った。

「アンタはそれでいいのかよ⋯⋯」

「俺は俺。あいつはあいつ。何も問題ねぇよ」

全く理解できないが、ナックルズが納得してるなら問題ないのだろうと思い直した。

シルバーは少し緊張を解いて、残りのココアを飲み干した。それから、シャドウが噛んでいたナックルズの指をもう一度横目で見た。

何故かもう一度心臓が大きくはねた。

「な⋯⋯なぁ、アンタの指⋯⋯」

ナックルズがシルバーの方を向く。

シルバーはしどろもどろになりながら尋ねた。

「だ、誰にでも噛ませてるのか?その⋯⋯例えば⋯⋯」

「俺⋯⋯⋯とか⋯⋯⋯⋯」

沈黙。

シルバーは全身を真っ赤にして両手を振った。

「うわぁぁぁ!何言ってんだ俺!ごめん!忘れてくれ!!」

ナックルズは目を見開き、真面目な顔をして考え込んだ。それから、まっすぐシルバーの顔を見て言った。

「右手の指は駄目だ。シャドウとの約束があるからな。⋯⋯でも、そうだな⋯⋯お前には随分助けてもらってるからな。よし、確認してやるよ。⋯⋯シャドウ!」

ナックルズが大きな声でシャドウを呼んだ。突如疾風が巻き起こり、ナックルズの前にシャドウが現れ、ひざまずいた。

「いや来るのかよ!疾風の如く!」

シルバーが冷や汗をかきながら突っ込む。そしてナックルズがシャドウに言った。

「シルバーに左手の指を噛ませてもいいか?大丈夫だ、お前の分は絶対に減らない。」

シャドウは穏やかな表情をして鼻息でうなずいた。

「ふす⋯⋯」

「いいのか?!二人とも、ありが……すごい信頼関係だったんだな⋯⋯アンタら」

───数刻後。

ソニックが上機嫌でリフレルームの扉を開けた。

「シルバー!お前が来てくれたお陰で今回はいつもより早めに敵を倒せそうで嬉しいぜ⋯⋯」

ソニックは笑顔でリフレルームを見渡した。その正面には⋯⋯

右手の指をシャドウにしゃぶらせ、左手の指をシルバーにしゃぶらせているナックルズ。

正座してナックルズの右の指をうっとりしながらむしゃぶりつくシャドウ。

同じく正座してナックルズの左の指をニコニコしながらむしゃぶりつくシルバーがいた。

「赤ん坊増やしてんじゃねえよ!多産のヤギのママかよ!」

ソニックが絶望して叫んだ。ナックルズは冷たい目で親友を拒んだ。

「お前の分はねぇぞ」

「いらねぇよ!!!!」

その日の特殊破壊作戦は、予想以上の速度と戦果をもって無事に終了した。