解説 第1話

Terraの物語(本編)は、普通に読むと、いわゆる普通の(?)BL小説ですが、全編神話的構造をとった物語です。

どこがどういう風に神話的なのか?という点に興味がある方に向けて、ここでは本シリーズの神話的構造についての解説をおこないます。

Terraの神話は、「冥界往還」「再生神話」「聖婚」「騎士道神話」などの構造が重なった英雄譚です。

冥界の断罪者(※1)であり、孤独な英雄であるシャドウが、聖母(※2)ナックルズに焦がれ、信仰の対象である聖母に、魂の帰還、母性への渇望、信仰心、恋慕、性欲などを同時に抱き、苦悩しながらも聖母の為に聖地を巡礼し、聖母の為に戦い続ける物語です。

普通に読んでいただく分には、いわゆるシャナコの恋愛物語です。


まずは、第一話の解説。

エンジェルアイランド=聖域、世界の中心

ナックルズ=聖母、守護者、大地母神

シャドウ=冥界の神(断罪者)、異邦の旅人

傷=血の契約(通過儀礼)

Terraの物語では、エンジェルアイランドは、いわばオリンポス山、高天原、エデンの楽園のような聖域であり、世界の中心です。

そこで無人機という異物が聖域を汚しにやってくる。シャドウはそれを倒し、聖母の代わりに怪我をする。

聖域の守護者であるナックルズはシャドウを看病し、食事を与え、優しく撫でる。

ここでの看病シーンは、やはり神話的構造を持っています。

傷の手当=通過儀礼

食事=聖餐

手を握る、撫でる=祝福、受容

そうして、異邦の来訪者であるシャドウが、聖母と聖域を守るために傷を負い、聖母によって看病され、聖域に属する資格を得たのです。

そしてシャドウに大きな変化が起きる。聖母の聖性に気付く⋯というより、「侵食され始める」。

シャドウは自分の内面の変化を理解しきれません。でも仮病を使い、そこにとどまりつづけ、撫でられるのをやめられない。

観察し、記録しようとして失敗し(カメラを向けて投げ捨てる)、自分でももうわけがわからない。信仰の初期段階です。でも自発的に信仰してるんじゃなくて、聖性に侵されはじめている。

シャドウの感情は複雑です。

信仰、安らぎ、依存、所有欲、性的衝動。全部未分化で混ざってます。だから自分でも処理できない。自分で自分が理解できない。

そしてソニック。ソニックはトリックスターであり天使。冥界の断罪者であり、聖性に侵され信徒化しかけているシャドウからすれば、ソニックは「遊び人」です。

でもソニックは既に聖域に帰属している遊び人。ソニックからすれば、シャドウの方が「最近やってきたよそ者」です。そしてナックルズの聖性に対する扱いや態度の違いで、対立が起きる。

そして聖母の誘拐事件が起きる。聖母の喪失。

主人公=英雄の旅、戦いの始まり。神話の始まりです。

ステージ1ボス、レジーナ。

彼女は「歪んだ母性」です。ナックルズの聖母としての聖性と反する存在。

聖母vs歪んだ母性。

この対立構造は、このTerra神話で繰り返し書かれます。ナックルズの聖性・母性と真っ向から対立するもの。それは、「母性が歪んでおかしくなったもの」です。

ナックルズは男性ですが、Terra神話では「聖母」であり「花嫁」です。男性性、男性神のもつ母性を書いています。受容の力。断罪しない。説教しない。否定しない。太陽のような強い重力で世界を引きつけ、受け止め、そこにただ立ち続ける。それがナックルズの大地母神、聖母としての母性です。

(ナックルズのこの聖性に近い性質を持つ神といえば、天照大神です。書き手のKanokoが日本人なので、「神話を書こう。聖母(聖性・母性を持つ受容の神)を書こう」と思って書くと、どうしても古事記に影響を受けてしまうようです。神としての役割・機能では古代メソポタミアのイシュタル、シュメールのイナンナ、ギリシャ神話のデメテルに少し近い気もしますが、性質としては天照大神が一番近いように感じます。存在そのものが世界を明るく照らす。いなくなっただけで、世界が闇に沈む)

そしてシャドウはナックルズを救うために、兄弟騎士のソニックと共に、冥界(レジーナの拠点)へ向かう。これは愛する妻を救うために冥界へ赴く、ギリシャ神話のオルフェウスや古事記のイザナギの物語に少し近いと思います。

そしてシャドウはナックルズを救出し、誓う。聖母を守る騎士としての宣言。巡礼の始まりです。

でも同時に欲望の自覚も生まれる。

第一話は、冥界の断罪者のシャドウが聖母ナックルズに忠誠を誓い、胸に欲望を抱きながらも信仰のための巡礼を開始するお話です。(※3)


(※1)シャドウの神話的役割「冥界の断罪者」について。

このシャドウの役割は、「人」ではなく「神」としての役割。つまり、完成された役割・上位存在としての役割です。

第一話でもソニックのお遊び(ナックルズに甘え過ぎたり、ナックルズにコスプレさせたり)を冷たく断罪しています。

本来他者を必要としない究極生命体。でも、ナックルズの聖性・母性に触れ、それを欲してしまう。冥界の神としての絶対的立場から転げ落ちてしまう。

冥界のハデスが地上のペルセポネに執着したり、天使ルシファーが欲望によって変質したりする物語に少し似ています。

しかしシャドウは「堕天」はしません。罪人化もしません。人間化(感情が生まれる)するのです。

完璧なる断罪者のシャドウが、ナックルズの包容力で溶かされ、心が人間化してしまう。

そうして、信仰、依存、所有欲、性的欲望、嫉妬などの人間的感情を抱き、それが「愛」へと帰結していく。

そして「救済」を求めて、巡礼を始める。Terraの神話は、救済の物語です。魂の救済。

「シャドウの孤独な魂をナックルズが救済する物語」。


(※2)Terraシリーズにおける「聖母」の定義について。

キリスト教における聖母は「神を生んだ人間」であり、聖母自身は神ではありません。

このTerraシリーズの聖母とは、「大地母神」「母性・受容の神」「母性・聖性を持つ存在」これをわかりやすい言い方で「聖母」と表現したものであり、キリスト教における聖母とは全く異なる意味のものです。ご了承ください。


(※3)この神話物語の構造や解説について。

書き手のKanokoは古事記がちょっと好きなだけのただの素人です。学者でも研究者でもありません。このサイトに書かれている神話に関する解説は、一切の専門性はありません。ご了承の上お楽しみください。