解説 第5話

第5話解説です。

Terraにおける神話的役割を持つキャラクター、「六柱」のうちの四番目の柱、キュイの登場です。


オリキャラについて。このTerraシリーズでは、キュイをはじめとした多くのオリジナルキャラクターが登場します。理由は、この物語は「ナックルズを中心に全ての因果が回る物語」だからです。

例えば、ナックルズが敵に攫われる話だと、ナックルを攫う敵役が必要です。ナックルズが媚薬を盛られる話だと、ナックルズに媚薬を飲ませる役が必要です。

攫われるナックルズが見たい。媚薬を盛られるナックルズが見たい。じゃあ、それをやってくれるキャラが必要です。

でも、原作にそういう、悪意をもってナックルズを辱めようとする卑怯でセクハラくさくて粘着質なストーカーっぽいキャラは、残念ながらいません。

さらにいうなら、ソニックに対する私(書き手:Kanoko)のソニック観も大きいです。

ソニックは私にとって、例えシャナコメイン妄想二次創作世界の中であっても、シャドウと並び立つ最強の双璧。イケメン。ヒーロー。陽気なスパダリ。圧倒的左固定。でもナックルズとはCPされない。ナックルズを親友だと思い込んでる。シャドウのライバルだけど、恋愛においては達観した位置で二人を見守る。

しかし、ソニックをそんな位置で書くとなると、シャドウの恋敵がいません(シルバーはKanoko的にはシル+ナコなので彼も恋敵にはなりません)。

でも恋敵が表れて荒れ狂うシャドウがみたい。

謎の敵にナックルズを攫われて怒り狂うシャドウが見たい。

媚薬を盛られて苦しむナックルズとそれを目の当たりにして恐怖と怒りで壊れかけるシャドウが見たい。

ではどうすればいいか。そういう役割を、オリキャラにこなしてもらうしかない。

敵役以外も同じです。

今回登場したキュイは、Terraの世界観・ストーリーを成立させるためのバランサーとして、物語の上で、目立ちすぎず、しかし決して無意味ではない位置に立ち、シャナコを支えてくれる、そんな静かなキャラクターです。


第5話のキュイは、大きな活躍はしません。キュイの本格的な活躍は9話以降です。

ですが、ここではキュイは、冥界の奥深く(マウントコルの地下施設の深い穴の奥)に閉じ込められたシャドウとナックルズを外界(現実世界)に接続し続けるという役割を担っています。

まずシャドウはナックルズの遺伝子情報を奪取するために、冥界行き(マウントコルの地下施設)を決意する。そしてナックルズを同行させる。ナックルズは聖母であると共に、守護者であり戦士だからです。守護するために戦うのが、大地母神ナックルズの持つ秩序であると、シャドウが学習したためです。

そしてその場にキュイも同行する。

これは、先ほど述べたように、キュイが二人を外界に接続する役割を持つからです。キュイは記録者。観察者。大地母神ナックルズや、冥界の断罪者シャドウほどの圧倒的神威は持っていませんが、二人を少し離れたところから観察し、秩序を保つために静かに立ち回ります。

どうしてここでソニックが同行せずに、キュイが同行したのか。

それは物語的には単にエージェントとして必要なメンバーだけを同行させただけですが、神話構造的には、聖母と英雄の、最初の「魂の共鳴」が起きるためです。

二人の神が閉ざされた冥界の奥深くで二人きりで共鳴を起こす。そのためには、他の神や天使がそこに立ちいるわけにはいかないからです。

そして大地母神ナックルズは、マウントコルの地下施設で、囚われた生き物たちを助け、自分は媚薬によって身体に侵食を受ける。身を犠牲にして、倒れるまで生き物を助け続ける。大地母神の受難です。

その後、シャドウが救出にやってきますが、地下深くの穴の中で、二人は媚薬の効果で苦しみます。

冥界の試練。エロスの暴走です。

シャドウの中で様々な感情が爆発します。

「守りたい」

「汚したくない」

「傷つけたくない」

「傷つけるくらいなら死んだ方がましだ」

「それでも触れたい」

「一人にさせたくない」

どれもシャドウの本音です。そして、シャドウは自身の中の感情を全て受け止め、自分なりの最適解に突き進む。

それが「噛みつく」。

触れる。一人にしない。守る。汚さない。傷つけない(噛み痕は残りますが)。

非常に動物的で、未熟で、衝動的な行動です。

でもこれはただの噛みつきではありません。「母性への回帰」であり、「魂の帰郷」です。

シャドウという帰る場所を持たない孤独な魂が、帰る場所を求めて、ナックルズの魂へ回帰しようとしているのです。

シャドウは第1話から一貫して、

・居場所がなく孤独

・役割でしか存在できない

・他者と結びつく回路が未発達

といった状態でした。

だから、ナックルズと関係を結ぶために、「騎士を名乗る」「守る」「自己断罪により聖域から離脱する」などの、役割を軸とした行動しかとれなかった。

しかし、ナックルズはシャドウとは正反対で、

・大地母神、聖域そのもの

・なんでも受け止める

・自身は動かずに、待ち続ける

といった、包容力そのものの存在。そのナックルズの魂に触れて、シャドウの「帰りたい」「どこかに帰属したい」「温かな母性にただすがりたい」という本能の願いが揺り起こされるのです。

そして魂の共鳴が起きる。

シャドウがナックルズに噛みつき、ナックルズが噛みつき返す。

抱きしめる、まじりあう、溶けあうのではなく、「泣きながら噛みつきあう」。

未熟で不完全な、魂の帰郷と、その受容です。

つまりTerraの物語は、シャドウとナックルズの恋愛物語であるよりも前に、

「孤独なシャドウの魂がナックルズの魂によって帰る場所を手に入れ、救われる物語」なのです。

そして観察者キュイが呼んだソニックや、味方のエージェントが駆け付ける事によって、二人は冥界から帰還し、無事現世へと再接続されます。

しかし、現世へと再接続された二人にふりかかるのは、「他者からの目線」という、圧倒的に生々しい現実。

「二人っきりで泣きながら噛みつき合ってました」

これは神話的にはうくつしき魂の共鳴であり、魂の帰還ですが、現実的には「性的で恋愛的ないやらしい何か」です。

ナックルズは言い訳しません。「なんか流れで噛みついちまった」くらいの認識。すっきり、あっさり。

ナックルズがここで詳細を言語化しないのは、知性が低いからではありません。

ナックルズは古代文化の島で孤独に生きてきたので、古代の戦士の語彙でしか思考・会話しません。なので、恋愛・哲学・倫理・感情などの、抽象的な言語をほとんど使いません。

ナックルズにとって大事なのは、物理。現実。状態。結果。

「何故か噛みつき合った」

「シャドウが一緒にいてくれた」

「結果、無事だった」

「なんかすっきりした」

「なら問題ねぇ」

この思考で、堂々とあっさりしているのです。言語化できないものは認識できない。だからシャドウに対しての恋愛的な感情を自覚・認識するのがナックルズにとっては至難の業なのです。羞恥心すら言語化できません。

逆にシャドウは言い訳しかしません。シャドウは冷静で合理主義者で語彙も豊富です。自身が性欲を抱えているという自覚も実はうっすらある。でも否定したい。だから言い訳するしかない。

そうしてシャドウとナックルズは結局ここで、

「恋人同士ではない」

「でもただの友人ではない」

「キスもしてないのに、泣きながら噛みつき合ったことはある」

「なんとなくわかり合ってるけど、何をわかり合ったのかはよくわからない」

という、言語化できない難しい関係性になってしまう。

そしてシャドウは内面に複雑な感情をたくさん抱えたまま、物語は6話へと続きます。