ナックルズのお手伝い 下

翌朝、ナックルズは少し回復したが、微熱はまだ残っているようで、ベッドの上で元気にフルーツにむしゃぶりついていた。

隣りでシャドウがホットミルクをつぎながら、ナックルズに言った。

「ナックルズ、落ち着いてゆっくり食べてくれ。熱で衰弱している場合の嚥下事故というのは、恐ろしいものなんだ」

「もうすぐ治るって、問題ねぇよ。ジークが籠いっぱいにフルーツとってきてくれたんだ、お前も食えよ」

ナックルズはシャドウの顔を見た瞬間、自分がシャドウと何で揉めていたのかなど、すぐにどうでもよくなったらしい。

とりあえず、シャドウがわざわざ会いに来てくれたということで、上機嫌になっていた。

シャドウはほっとして、医療室に戻ってきたジークに話しかけた。

「ナックルズは熱が引くまでもう少しここで休ませてやってくれ。僕もそれまでここに滞在し、ナックルズの看病を続けようと思う」

「渡りに船だな。それなら、お前に追加で討伐の依頼を10件ほど⋯⋯」

シャドウの報告に、すかさずジークが乗ってきた。

シャドウはイラついて目を剥いた。

「僕を便利に使おうとするな」

「使ってなどいない。頼ってるんだ」

シャドウは顔をジークに近づけて凄んだが、ジークも負けずに顔を寄せてにらみ返した。

ジークとしては引き下がるわけにいかない。

シャドウという無敵の戦力が目の前にいるうちは、なんとしてでもこれを化け物の討伐に活用させたい。

シャドウは諦めてため息をついて言った。

「師団長様の面目躍如だな。⋯⋯報酬はなんだ」

ジークは少し考え、テーブルの上にあった紙に何かを書き込み、シャドウの前に差し出した。

「手作りマッサージ券、5回分でどうだ」

シャドウが珍妙な顔で固まった。手書きのマッサージ券とジークの顔を交互に見て言った。

「マッサージ⋯⋯お前が僕に?」

ジークは表情を変えずに説明した。

「クアンタの魔法薬を併用した高度魔法医療マッサージだ。筋肉疲労によく効くぞ。まぁ、お前は無限の体力があるようだし、いらないなら⋯⋯」

ジークがマッサージ券を引っ込めようとしたが、シャドウが素早く奪い取った。

シャドウとしては、ジークを心配するナックルズのためにも、ジークが背負う創世の手助けを断るわけにはいかない。

また、世界の創世に必死で、ジークがシャドウに対して大きな報酬を準備できないのも理解している。

(この世界の魔法薬とやらの効果を、身をもって試してみるのもいいかもしれない)

ソニックがやってきて、シャドウの手元をのぞき込んだ。

「よう、シャドウ。お前もしばらくこっちにいるなら、俺もそうしようかな。⋯⋯なんだそれ、遊園地のチケットか何かか?」

シャドウは一瞬考えた。

化け物討伐をソニックに手伝わせると楽ができる。しかし、せっかく報酬でもらった貴重な魔法マッサージ券をソニックに分け与えたくはない。

「君には関係ない。暇なら、外で衛兵の手伝いでもしていろ」

ソニックはつまらなさそうな顔をしたが、シャドウに向かって軽く舌を出し、医療室の外へ元気に飛び出していった。


シャドウはさっそく化け物2体を討伐し、マッサージ券を片手にジークの元を訪れた。

討伐の報告を済ませ、マッサージ券を渡す。

ジークは頷き、個室へシャドウを案内し、マッサージの準備を始めた。

上品な香りのアロマを焚くと、シャドウに魔法薬を煎じたお茶を飲ませる。

それから白いベッドにシャドウを寝かせ、魔法薬を調合し、シャドウの身体に丁寧に揉み込んでいく。

「こ⋯⋯⋯これは⋯⋯」

シャドウはあまりの心地よさに驚いて言葉を失った。

「クアンタに伝わる秘伝の回復薬を、俺が独自に改良して作った物だ。肉体と精神の疲労を同時に回復させ、神経を集中させる効果をもたらす。希望があれば、調合を少し変えて細かい効果を追加させる事もできる」

シャドウはうっとりして、夢見心地でのどを鳴らし始めた。

「グルルル⋯⋯」

ジークは少し驚いたが、そのまま施術を続け、足の裏のツボを軽く押してみた。

「プッヒィ」

シャドウの口から変な声が漏れる。

ジークはついビクッと飛び上がったが、知らんふりをして、太ももを揉みしだいた。

「ナオォ〜」

シャドウが猫のような声を出して気持ちよさそうにのけぞった。

「⋯⋯⋯⋯」

ジークはそれ以上は聞こえないふりをして、ひたすら真顔でマッサージを続けた。

マッサージを終えたシャドウは、恍惚とした表情のまま、しばらくベッドから起き上がれなかった。

しばらくしてジークがお茶を差し出すと、ようやく起き上がって受け取り、ゆっくりと飲んで言った。

「これが、高度魔法医療マッサージ⋯⋯⋯」

「そうだ。調子はどうだ?体質の問題もあるし、マッサージという施術方法そのものを嫌がる者もいるが⋯⋯」

「実に興味深い。僕の身体にはかなり合っているようだ。次回も是非頼む」

シャドウは大満足してうなずき、次回のマッサージを要求した。ついでに調合の変更による追加効果についての説明をしっかり受け、神経集中の効果をさらに強めた施術を予約した。

数時間後。

「2体討伐してきたぞ。予約した分のマッサージを頼む」

ジークは背後からの声に驚いて飛び上がった。

「シャ、シャドウ。もう討伐してきたのか?先程のマッサージから、そんなに時間が経っていないが⋯⋯」

「短時間でマッサージを受けてはいけない制約でもあるのか?僕は今すぐマッサージを受けたいんだが」

「い、いや。お前が欲するなら問題ない。すぐに施術の準備をしよう」

ジークは急いでマッサージの準備をし、魔法薬を調合した。

再びシャドウをベッドに寝かせ、丁寧に薬を揉み込んでいく。

「ナオッ、ナオ〜」

相変わらず、シャドウが猫のような雄叫びを上げて悶絶する。

ジークは聞こえないふりをしてシャドウのお腹を揉み込んだ。

「グルルル、ンニィ〜、プッヒィ〜」

シャドウがのどを鳴らしながら喘ぎ、心地よさそうにベッドの上を転がる。

ジークはシャドウを抑えてうつ伏せにし、背中からお尻を優しく揉み込む。

「フミィ〜、プニィ〜、ンッヒィ〜」

シャドウがあられもない声で喘いで頭と尻尾を振る。

ジークはひたすら真顔で施術に集中した。

ようやく全ての施術を終え、シャドウを仰向けに寝かせて休ませる。

シャドウは焦点の定まらない目で、よだれを垂らして脱力していた。

ジークがそっと顔を温かい布でぬぐってやると、ようやく我に返ってしゃべりはじめた。

「ハッ⋯⋯⋯ハァ、ハァ、⋯⋯よかったぞ。次のマッサージだが⋯⋯⋯」

ジークはビクッと肩を震わせて言った。

「あ、ああ⋯⋯いや、次の施術は⋯⋯少し時間をくれ。ち、調合に使う魔法薬の在庫が切れてしまったようだ」

ジークはとっさに嘘をついた。

シャドウの目が軽く血走っている。シャドウの希望で、神経を集中させる効果の薬を多めに調合したが、少し効き過ぎているのかもしれない。

(別に危険な薬なんて使ってないし、身体を壊すというわけではないが⋯⋯どうも様子がおかしい。少し時間を置いて落ち着かせないと⋯⋯⋯)

ジークが思案していると、シャドウがジークの肩を強くつかんだ。

「いっ⋯⋯」

血走った目でジークに圧をかける。ジークは凍り付いた。

「次のマッサージも早く受けたい。最短でいつ施術可能になる?」

「⋯⋯あ、明日の昼頃には⋯⋯」

「すぐに討伐を完了させて、また来る。頼むぞ」

シャドウはそう言って、光の速さで去っていった。

ジークはそのままヘナヘナとへたり込み、しばらくそこから動けなかった。


シャドウは翌日の朝には2体分の討伐を済ませ、ジークの背後に立った。

ジークは飛び上がって驚き、慌てて施術の準備をした。

「昼まで時間がかかるんじゃなかったのか?」

「あ、うう⋯⋯」

「早まる分にはいい。さっそく頼む」

シャドウはベッドに横になり、すぐに施術を受けた。

「ンナオオオ〜ッ!」

シャドウがコロコロとベッドの上を転がりながら雄叫びを上げる。

ジークは必死でシャドウを制御しながら魔法薬を揉み込んだ。

「フシューッ!ムハーッ!」

シャドウが心地よさそうに悶絶して、ジークにしがみついた。

ジークはシャドウをなだめるために、少しの間施術の手を止めて、シャドウの背中をさすっていた。

「⋯⋯何やってんだ、お前ら⋯⋯⋯」

背後で聞き慣れた声がして、ジークは慌てて振り向いた。

「ソ、ソニック⋯⋯?!」

「シャドウが血走った目で駆け抜けて行くのが見えたら、なんとなくな。何やってんだシャドウ、ジークから離れろ」

「プヒィ」

シャドウが恍惚とした表情のまま鼻息で返答した。

ジークはなんでもないふりをして言った。

「ま、魔法薬を使用した医療マッサージの施術中だ。途中で止めるわけにはいかない。邪魔をするなら出ていけ」

「⋯⋯ふーん、医療マッサージねぇ⋯⋯」

ソニックはジト目で二人を見やった後、近くの丸椅子に腰掛けて言った。

「ただの医療行為なんだろ?だったら、後ろで見学させてもらうぜ。邪魔しなけりゃいいんだろ」

ジークはじんわりと背中に汗をかくのを感じたが、諦めて施術を再開した。

「プニィ〜、ムニィ〜」

相変わらずシャドウが猫なで声で悶絶する。

ジークはソニックからの突き刺すような視線を感じて、猛烈に恥ずかしくなってきた。

真っ赤な顔で施術を続ける。

シャドウをうつ伏せに寝かせて、お尻に魔法薬を揉み込むと、シャドウがひときわ大きな雄叫びを上げてのけぞった。

背後の空気がビリビリと張り詰めるのを感じて、ジークは真っ赤な顔のまま泣きそうになった。

ようやく施術を終えて、ジークが温かいお茶をシャドウに渡した。

シャドウは恍惚な表情のままゆっくりとお茶を飲んでいたが、ソニックと視線がかちあい、ハッとした顔をした後、すぐに高飛車な表情に戻り、なんでもない風に言った。

「ジーク、今回もよかったぞ。さっそく次回の予約だが⋯⋯」

「待てよ、シャドウ。ジークに何やらせてんだ、説明しろよ」

シャドウとソニックが黙り込んでにらみ合った。

ビリビリと緊張した空気がぶつかり合う。

「ドアを閉めている個室に勝手に侵入してきたのか?つくづくデリカシーのない男だな。君には関係ない」

「何が医療マッサージだ。ジークは嫌がってるんじゃないか?お前が無理強いしてるんだろ」

シャドウは、ハッと笑ってマッサージ券をソニックに見せつけた。

「ジークが自分から僕に提示してきたんだ。この手作りのマッサージ回数券をな。僕は正当な権利を行使してるだけだ。ジーク、次回も神経集中の効果追加で頼む」

「あ、いや⋯⋯⋯神経集中効果は、少し抑えてみた方が⋯⋯⋯」

「いいや、効果2倍で頼む。この調合は驚く程効果的だ。化け物の討伐にかかる時間を圧倒的に短縮できる。お前も効率的に討伐を進めたいだろう」

ジークは迷うような仕草をしたが、やがて黙って頷いた。

「昼過ぎにまた来る」

シャドウはそう言って、あっという間に走り去っていった。

ソニックは呆然と立ち尽くすジークに向かって言った。

「ただの医療マッサージなら、俺も受けていいんだよな?そのマッサージ回数券、どうやったらもらえるんだ?」

ジークはびっくりしてソニックを見た。

迷った挙句、正直に言った。

「ば、化け物を討伐する報酬として、シャドウに渡したんだ⋯⋯」

「俺も討伐する。何体討伐すればいいんだ?」

ジークは困った。そして、あえてふっかけてみた。

「ば、化け物10体討伐で⋯⋯マッサージ回数券、1枚」

ソニックはニッコリ笑って即答した。

「よーし、待ってろ。すぐに10体倒してきてやるからな」

ソニックは化け物の位置情報をジークから受け取ると、即座に拠点の外に飛び出して言った。

「あああ⋯⋯なんで、こうなる⋯⋯」

ジークは頭を抱えてその場にうずくまった。


その後、シャドウは完全に癖になって、短時間で化け物を討伐しては、ジークの元へ通い、マッサージの施術を受けた。

5回分のマッサージ券を使い切ってしまい、シャドウはすかさず言った。

「追加の討伐依頼を受けてやるから、マッサージ券をもっとよこせ」

ジークは震え上がって言った。

「い、いったん討伐はもうこのくらいで⋯⋯」

シャドウの腕が素早くのびて、ジークの首をひっつかんだ。

「グエェ!」

「何を遠慮している。創世を最速で成したいんだろう。マッサージのお陰で僕はすこぶる調子がいい。化け物を5体討伐してやるから、マッサージ券を1枚よこせ。いいな?」

ジークは涙目でうなずき、怯えながらマッサージ券を渡した。

シャドウはマッサージ券を受け取ると、満足げにうなずき、去っていった。

震えながら立ち上がり、通路に出ると、休憩中のソニックに出会った。

「ようジーク!今ちょうど半分討伐したところだ。ちょっと休んだら、すぐに10体到達してやるからな。待ってろよ」

ソニックは楽しげにウィンクすると、風のように爽やかに駆け抜けていった。

ジークは完全に追い詰められて、泣きながらナックルズが休んでいる医療室へ駆けていった。

ナックルズはようやく熱が下がってきて、フルーツをむしゃむしゃ食べながらのんびりベッドに寝転がっていた。

そこへジークが泣きながら飛び込んできた。

「ナッ、ナックルズ。ウッ、ウッ」

「おい、どうした⋯⋯」

ジークがしゃくり上げながらナックルズの胸元へすがりついた。

ナックルズは黙ってジークの背中をさすり続けた。

「ヒック、ヒッ⋯⋯」

「泣いてるだけじゃわかんねぇよ」

「シャ、シャドウが、ソニックが⋯⋯」

「まーーたあいつらかよ⋯⋯⋯」

しばらくナックルズは何も言わずに待っていた。

やがてジークが落ち着き、少しずつ状況を説明しだした。

「化け物討伐の報酬に、高度魔法医療マッサージの回数券をシャドウに渡したんだ。疲労回復や集中力強化の効果があるマッサージだ。しかし、どうも魔法薬の効果がシャドウの身体に効き過ぎているらしい。⋯⋯マッサージの魔法効果で討伐は捗っているが⋯⋯シャドウが血眼で際限なくマッサージを要求してくるようになってしまった。俺は、それが怖くて⋯⋯」

「あー。あいつ、一度イイと思ったものは、極限まで使い倒そうとしてくるからな。マッサージの効果がてきめんで、気に入っちまったんだろうな」

ナックルズはすぐに状況を理解した。興奮して前のめりになったシャドウの様子が簡単に想像できる。

それから追加で尋ねた。

「それで、ソニックがなんだって?」

「ソッ、ソニックに気付かれて、施術を見られて⋯⋯施術に夢中なシャドウを見て、化け物を討伐するから、俺にも施術を受けさせろと⋯⋯」

「ソニックにマッサージするのは嫌なのか?」

「⋯⋯⋯⋯」

「フン。まぁソニックのやつも、結局シャドウと張り合って、際限なくマッサージを要求するようになりかねないからな」

ナックルズは鼻を鳴らして、腕組みをした。

それから少し考えて言った。

「よし、俺がそのマッサージを手伝ってやるよ」

「えっ⋯⋯⋯」

ジークが驚き、裏返った声を上げた。

「な、何故だ⋯⋯?」

「そのマッサージ、マジで効果はあるんだろ。でもシャドウもソニックも、お前が相手だから、強めに出りゃあ、いくらでもおかわりがもらえると思っちまってんだよ。俺が一緒にいれば、あいつらも舐めた事は言えねぇ。マッサージよりも前に、何をくらう羽目になるか、わかってるはずだからな」

ナックルズが豪快に笑って言った。

ジークはぽかんとした表情でナックルズを見つめていたが、少し笑い返し、答えた。

「そ、そうだな⋯⋯身体はもういいのか?」

「熱はほとんど下がったし、問題ねぇよ。それにしても、魔法の医療マッサージか。面白そうだな。よーし、腕が鳴るぜ」

「力加減に注意してくれよ。人体ってのは、骨やら関節やら壊しちゃいけない箇所ってのがたくさんあってだな⋯⋯」

「ば、馬鹿にするんじゃねぇ。優しくやってやるよ、完熟フルーツを籠につむ時みたいにな」

ナックルズが拳をジークの前に突きだして言った。

ジークは笑って立ち上がり、ナックルズを連れて、施術の準備へ向かった。


シャドウが化け物を討伐し、拠点に戻ってきて、ジークを探し、衛兵に話しかけた。

マッサージ用の個室にいるとの事で、シャドウはすぐに個室へ向かい、ノックしてドアを開けた。

「ジーク、討伐が済んだぞ。マッサージを⋯⋯⋯」

「よう、シャドウ。横になれよ。マッサージを始めるぜ」

シャドウは言いかけて固まった。

医療用の白い衣服を着たナックルズが、ドヤ顔でシャドウを迎え入れた。

ジークは部屋の奥でシャドウをチラチラ見ながら、黙って魔法薬を処方している。

「ナ、ナックルズ。身体はすっかりいいのか?何故ここに⋯⋯」

「ジークから聞いたぜ。魔法医療マッサージの施術は、俺とジークの二人でやる。いいから俺たちに任せて、リラックスしろよ」

シャドウは完全に面食らったが、ナックルズが得意げに案内してくるので、何も言い返せず、大人しくいつも通りベッドに横たわった。

「あー、今回の魔法薬は、俺の意見で、集中力強化はなし。疲労回復、リラックスの効果、身体が心地よくなるやつ、心がポカポカするやつを混ぜてもらった」

「なんだと⋯⋯?すまない、ナックルズ、僕は戦闘効率を最大限に高めるために⋯⋯」

シャドウが慌ててナックルズに弁明する。

ナックルズは冷静に言い返した。

「そんなにがっつくんじゃねぇよ。この世界が完全に元通りになるには、めちゃくちゃ時間がかかるんだろ?だったら、あせらず、少しずつだ。まずはここらでいったん完全に身体を休ませておけよ」

シャドウは納得いかない顔で両目をぐるぐるさせていたが、魔法薬を両手にたっぷりつけたナックルズに身体をがっしりつかまれて、しかたなく抵抗をやめて、大人しく横になった。

それから目をつむってナックルズの施術を受け、すぐに、

「ンナァァァ〜ン!」

部屋の外まで響くような猫の雄叫びを上げた。

ナックルズは前もってジークに教えてもらった通り、丁寧にこねこねと魔法薬を揉み込んでいった。

シャドウは想定外の心地よさに、ビクビクと痙攣しながら喘ぎ声をあげた。

「ンナッ、アヒッ、アオッ、ンアッ、アオオォォ!」

「どうだ?気持ちいいか?ここか?」

「ンナッ、ナックルズ⋯⋯アヒッ、そん、そんなとこ⋯⋯やめっ!オアッ!ンアアアアッ!」

シャドウはのけぞってコロコロと転げ回りながら、泣いて喘ぎ声を出した。

ジークはナックルズを手伝おうとしたが、後ろから黙って様子見する事にした。

(今回の魔法薬は、疲労回復効果、リラックス効果と⋯⋯さらに、シャドウの好みそうな身体刺激⋯⋯快感を強化した調合になっている。しかも番のナックルズが施術してるから、いっそう心地いいのかもしれないな)

シャドウが海老反りになって喘ぐ。

ナックルズが難なくコロリと身体を転がし、さらに魔法薬を揉み込んだ。

「ヒァァ!アッ、アヒッ!ンハァッ!あ、ナックルズ⋯⋯!アッ!あっ、こ、壊れる!こわれ⋯⋯アッヒィィィ!」

シャドウがひくひくと泣いてしゃくり上げる。

ナックルズがシャドウの背中を撫でながら尋ねた。

「つらいのか?いったんやめるか?」

「アッ、もっと⋯⋯もっと、つよく⋯⋯ンヒッ」

ナックルズがお尻をギュッと揉み込んだ。

「ハァッヒィィィ!ンワァァァーッ!」

シャドウが首をガクガク震えさせて悦んだ。

「ナッ、ナックルズ⋯⋯もっ、もっと、ヒッ⋯⋯」

シャドウが歓喜の声で震えながらナックルズにしがみついた。

「よーし、力を抜いて楽にしてろ」

ナックルズは落ち着いて施術を続ける。

シャドウは泣きながらベッドの上で転げ回り、痙攣し、喘ぎ続け、施術が終わって、ようやく大人しくなった。

「よーし、これで終わりだ。なぁジーク、シャドウが白目剥いて動かねぇんだけど、どうしちまったんだ」

「施術は完璧だ。握力があるし、お前はマッサージ師の素質があるかもしれないな。シャドウは⋯⋯まぁ、心地良すぎて寝ているだけだ。身体を拭いて、しばらくそっとしておいてやれ」

ジークは、幸福な表情のまま完全に気絶したシャドウを見て、ほっと一息ついた。


続いてすぐに、ソニックが化け物10体を討伐してマッサージ用の個室へやって来た。

シャドウは既に別室へ運ばれ、ソニック用の施術準備が完了した部屋で、笑顔のナックルズがソニックを引っ張り込み、ベッドへ引きずり込んだ。

「へっへっへ。来やがったなソニック、観念しやがれ。ここでお前は俺の手によって、コロリと気絶して終わるんだぜ」

「おいちょっと待て、ナックルズ。なんなんだその完全に悪役の台詞は。ジーク、なんでこいつがここにいるんだよ」

ソニックがしかめっ面でナックルズの手を振りほどいた。

ジークは笑いをこらえて説明した。

「ナックルズがマッサージの施術を手伝ってくれる事になったんだ。既にシャドウもそいつから施術を受けているが、マッサージの質は問題ないはずだから、安心して横になってろ」

ソニックは思いっきり不満そうな顔をした。

ソニックはジークにマッサージされたいのであって、マッサージの質にこだわりがあるわけじゃない。

しかし、ここでゴネてもジークからの印象が悪くなるだけなので、いったんソニックは大人しく流れに従ってみる事にした。

ナックルズが得意げにソニックをベッドに寝かせ、魔法薬をたっぷりつけた両手を掲げて言った。

「今回の調合は、元気がでる効果、ハッピーな気分になる効果、なんかワクワクする効果、チリドックみたいな匂い」

「最後の匂いは俺向けの特別サービスか?嫌な予感しかしないんだけど⋯⋯んぎっ」

ナックルズが思いっきりソニックの太ももを揉み込んだ。

「ンギェェェーッ!」

ソニックが激痛で悲鳴を上げた。

構わずナックルズが元気いっぱいにゴリゴリと揉み込んでいく。

「いだい!いだいっで!やめっ!やめれーっ!」

ソニックが必死でのたうち回る。

ジークが慌てて制止した。

「お、落ち着けナックルズ。力加減を思い出せ。シャドウの時より明らかに力んでいるだろう」

「そ、そうかぁ⋯⋯?元気のでる効果だから、元気に揉み込んだ方が、効果出るんじゃねぇのか」

「お前の元気な揉み込みはソニックの元気な肉体を損傷させる危険性がある。いいから、シャドウにやったのと同じ感覚で、完熟したフルーツを触るようにやれ」

ナックルズがうろたえながらソニックの上腕を揉み込む。

ソニックが緊張した面持ちで声を上げる。

「ああ、そう、そんな感じ⋯⋯いや強い!そう、もっと⋯⋯優しく⋯⋯いや強い!!」

ソニックはたまらず涙目でジークにすがった。

「ジーク!」

ジークは仕方なくナックルズに向かって見本を見せた。

優しくソニックの肩から背中を揉み込み、腰から尻、太ももにかけて、丁寧に揉み込んでいく。

「ああ〜⋯⋯なんか⋯⋯ジンジンと、幸せが心の中に膨れ上がっていく⋯⋯」

ソニックは夢見心地でうっとりしてジークを見つめた。

あまりの心地良さで、つい無意識でジークの腰元に思いっきりしがみついた。

「ジーク、一緒に幸せになろうぜ⋯⋯」

「ヒィィ!」

ナックルズがすかさずソニックの太ももを強く揉み込んだ。

「ギィヤァァァ!」

激痛でソニックの身体が跳ね上がる。

ナックルズが低い声で笑って言った。

「逃がさねぇぜ、ソニック。お前は俺の手で落ちるんだよ。このまま気絶するまで、チリドッグの魔法薬を揉み込んでやる」

「だから、なんでそんな悪役の台詞をわざわざ⋯⋯いってぇ!せめて優しくしろ!いてぇ!あ、チリドッグみたいな匂い⋯⋯⋯いってぇぇぇ!」

ソニックはチリドッグの偽物の匂いに包まれながら、痛みと心地良さで悶絶し、疲れ果て、結局シャドウと同じように気絶してしまった。


結局シャドウとソニックは一晩仲良く気絶した。

ソニックは翌朝、魔法の効果で強い多幸感に包まれ、拠点中を笑顔で走り回っていたが、シャドウは逆にクラゲのように脱力して、動く事すらままならなかった。

「シャドウ、大丈夫か?」

「プヒィ⋯⋯」

シャドウは客室のベッドに横になったまま、子猫のようにうっとりした表情でナックルズの手に頭をこすりつけた。

ソニックが窓から飛び込んで来て走り回りながら言った。

「ようお前ら、今日もハッピーだよなぁ!俺はどうしようもなく走りたくて止まらないぜ。ジークはどこだ?いやいいや、自分で探してくる。じゃあな!」

そして、ハッピーだぜぇー、と叫びながら、そのままスピン回転で窓から飛び出して去っていった。

ナックルズは困った顔で頭をかいた。

「シャドウはトロトロになって動かねぇし、ソニックは走りっぱなしの喋りっぱなしでいつも以上にうっとうしいし⋯⋯魔法医療マッサージも、効きすぎると毒にしかならねぇのかもなぁ」

ドアをノックして、ジークが入ってきた。

なんだか妙に顔が赤い。

「シャドウは回復していないか。マッサージの頻度も高かったし、少し薬が効き過ぎたかもしれないな」

「ジーク、お前、顔が赤いぜ。今度はお前が熱にやられてるんじゃないのか?」

「こ、これは、ソニックのやつが⋯⋯いや、なんでもない。⋯⋯ソニックはここには来てないんだな?」

ジークが、うろたえながら言った。

ナックルズがさっき来たぞと答える前に、開けっ放しの窓からもう一度ソニックが飛び込んできた。

「ようジーク!ここにいたのかよ!っていっても挨拶するのは三回目だけどな。俺はハッピーだぜ、お前のお陰でな。それになんだかワクワクしすぎて、身体が止まりそうもないんだ。そういうわけで、ハッピーのおすそわけ。もちろん、三回目だけどな」

ソニックは早口でそう言って、ジークに飛びつき、顔のあちこちにキスをして、再び窓から飛び出して去っていった。

ジークが言葉を失ってヘナヘナと床にへたり込んだ。

ナックルズはため息をついて言った。

「あーあ、もうめちゃくちゃだぜ。まともに立ってんの、俺だけじゃねぇか」

「プヒィ〜」

シャドウが幸せそうに相槌をうった。

ジークはへたり込んだまま、ソニックの魔法薬の効果が切れる時間を必死に算出し、その効果の長さに、がっくりと肩を落とした。