ナックルズのお手伝い 上

滅亡世界・クアンタ。

世界の創世を目指し、小さな拠点の中で、研究員や衛兵たちが、せわしなく動き回っていた。

「よーし、なんでも手伝うぜ。力仕事なら、なおさらな」

拠点の中で、元気な声が響く。赤いハリモグラ──ナックルズが、ジークの創世の手伝いのために、クアンタの拠点までやって来ていた。

クアンタのバイオエネルギー生成拠点は最初期よりも少し拡充されて、現在は人工湖の建造に取り掛かろうとしていた。

ナックルズは大張り切りで、湖の建造予定地の探索に同行した。

窪地の中の長い洞窟を、探索チームの一行が進んでいく。

「ナックルズ、あまり張り切り過ぎるなよ。一番の脅威だったネビュロスは討伐したが、それ以外の大物もまだ潜んではいるんだからな」

ジークが後ろから忠告した。

「へへっ、大物が来るなら喜んで受けて立つぜ。お前が一人の時より、俺がいる時に出くわした方が楽でいいだろ」

ナックルズが得意げに拳を打ち鳴らしながら歩く。

その時、前方から大きな悲鳴が重なって響いた。

ナックルズが弾けるように飛び出していく。

洞窟の中の開けた空間に飛び出した。そこには、赤黒い不気味なツタ植物のような何かが、ウネウネとうごめきながら探索チームのメンバー達を長くのびるツタで絡みとっていた。

捕らえられたメンバー達は、青白い顔でぐったりとして動かない。

「この野郎!そいつらを離しやがれ!」

ナックルズは躊躇なく飛び込み、襲い来るツタを器用によけながら、植物の根本を思いっきり殴りつけた。

ドカドカと連打を浴びせ、あっという間に植物が弱っていく。しかし、ナックルズは突然手足の間隔を失い、前のめりにばったりと倒れた。

「あ⋯⋯ぐ⋯⋯っ」

何かしらの植物の攻撃のようだったが、ナックルズは構わず上体を無理やり起こし、メンバー達を絡めとっているツタに牙を突き立て、無理やり引きちぎった。

「ん⋯⋯ぐっ⋯⋯⋯ふぎっ⋯⋯!」

手足の間隔がないまま、メンバー達を無理やり抱え、引きずるように運び、赤黒い植物がはびこっていた空間の、手前の通路まで運んでいった。

「ナックルズ!どうした!」

ジークと後続のメンバー達が遅れて到着した頃には、ナックルズは完全に身体の自由を失って、通路に転がっていた。

ジークが慌ててナックルズを抱え起こす。

「ナックルズ、何が起きた。化け物にでもやられたのか?!」

「⋯⋯ん⋯⋯⋯う⋯⋯⋯」

ナックルズは口の間隔すら失って、ぼんやりした目でジークを見上げた。

ナックルズが助け出したメンバーの一人が、かろうじて意識を保っており、状況をジークに報告した。

そうして、探索チーム一行は、急いで撤退し、負傷したメンバーを拠点へ移送した。


「無鉄砲過ぎるんだよ、このまぬけ野郎。狭い洞窟内で、植物系の化物に出くわしたら、毒やガスなどの攻撃を想定して、迂闊に前に飛び出すのは控えるべきだ」

ジークは、拠点内の医療室でベッドに寝かせたナックルズを介抱しながら、イライラした様子でナックルズに説教をくらわせた。

洞窟にはびこっていた赤黒い植物は、ガス状の毒を吹き出し、生き物を捕食する性質の化物のようだった。

「だ、だ⋯⋯って、つかまってる、やつらが、いたんだ。ほっとけるわけ、ない⋯⋯だろ」

植物の毒が身体に回りきって、舌足らずな口調になったナックルズが必死に言い返す。

「⋯⋯⋯⋯」

ジークは黙り込んだ。実際、ナックルズが迅速に全員を救出したお陰で、ナックルズ以外の他のメンバーは毒によるダメージも重症化せず、捕食もされず、魔法薬の投与であっという間に回復してしまった。

「お前のお陰で、死者も重傷者も出さずに済んだ。しかし、お前の身体は⋯⋯どうも、クアンタの魔法薬との相性が悪いようだ。あまり無理して投与するより、自然治癒を待った方が安全に回復できるだろうというのが、医療兵の見立てだ」

「あ⋯⋯あ、おれのからだは、毒とか、くすりとか、そういうのに、弱いらしい。まえも、へんなくすりをくらって⋯⋯からだが、へんになっちまった事が、あるんだ」

ジークは布団ごしにナックルズの身体をさすりながら言った。

「,苦しいか?せっかくお前が応援に来てくれたのに、危ない目に遭わせてしまって悪かった」

「こんなもん、寝てりゃ、なおるぜ⋯⋯⋯」

ナックルズが力なく笑った。ジークは少し考え、ナックルズに尋ねた。

「お前が望むなら、エンジェルアイランドに今すぐ移送するか?お前をこんな目に遭わせてしまい、シャドウに申し訳が立たない。俺が責任を持って、シャドウに謝罪をしに行こう」

「やめろ。⋯⋯シャドウなんか、関係ねぇよ。おれは⋯⋯しばらく、ここにいる」

ナックルズがしかめっ面で返した。

ジークはそうか、と言ったが、違和感を覚え、言い返した。

「関係なくはないだろう。お前が負傷したと聞いたら、シャドウはきっと心配して⋯⋯」

「関係ねぇよ!あんなやつ!」

ナックルズが大声で叫ぶ。付近にいた医療兵がびっくりして振り返る。

ジークは慌てて医療兵に合図を送り、退室を促した。二人っきりになってから、ジークはナックルズに尋ねた。

「おい、どうした。シャドウと何かあったのか」

「だって、しりが」

「うん?」

「⋯⋯⋯⋯」

興奮気味に、フンス、と鼻を鳴らしてナックルズが黙りこくった。

「シャドウに意地悪でもされたのか」

ジークが尋ねる。

「しりはだめだ」

「何⋯⋯⋯⋯」

「尻のわれめを舐めるのはやめろって、なんどいっても聞かねぇんだよ!」

医療室の外まで響きそうな大声でナックルズが叫んだ。

ジークは思わず椅子から転げ落ちてひっくり返った。

「なっ⋯⋯な、⋯⋯お前ら⋯⋯⋯」

ジークは何と答えればいいかわからず、しばらく黙って、椅子にしがみついた。

シャドウとナックルズが、結局、既成事実的に身体の関係を結んだのはジークももう理解している。

ジークとしては、正面からまっとうに誓い合って契りを交わさなかった事に強い不満を覚えたが、それでも二人が番として正当な関係に昇格した事は、喜ばしく思っていた。

それなのに。

(⋯⋯⋯いまだにシャドウは、懲りずにナックルズの許可を正面から得ずに⋯⋯尻の割れ目を⋯⋯勝手に舐めている⋯⋯⋯のか)

ジークは静かに悲しみで震えた。

ジークの中で、シャドウとナックルズは究極のうつくしき番だった。

ならば、契る時はいつも、正面から誓いあい、正面から捧げあい、正面から愛し合うのがふさわしいに決まっている。

それなのに、シャドウはナックルズの許可しない部位を、許可しない方法で、一方的に「犯している」。

「ハァァァ⋯⋯⋯」

ジークは大きくため息をついた。

自分はそもそも決闘の敗者。シャドウに意見を言える立場ではない。

それでも、どうしてもナックルズだけは、正当に、正面から、堂々と幸せになって欲しかった。

「⋯⋯ナックルズ。お前は今、幸せなのか⋯⋯?」

ジークは思わずナックルズに向かって、すがるように尋ねた。

「んん⋯⋯?」

ナックルズはゆっくりと頭を動かした。そして、なんでもない顔で笑って言った。

「さぁな。でも、さいこうにワクワクしてるぜ。⋯⋯毒がからだから消えたら、拠点中を掘り起こして、ハリモグラの穴だらけにしてやるからな」

ジークは少し安心し、苦笑いして言った。

「やめろ。食事はどうする?あまり豪華なもてなしはできないが⋯⋯」

「フルーツってないか?⋯⋯疲れた時は、いつもフルーツを食ってるんだ」

「育成可能な植物類にはまだ限りがあるから、甘いものは人工甘味料しかないな。そうだ、お前さえよければ、俺一人でお前の島に戻って、フルーツをとってきてやろうか? 」

「いいのか?⋯⋯だったら、ここにいるみんなの分も、とってきていいぜ」

「そうか、悪いな。ゆっくり寝てろ」


ジークはすぐに転送魔法を使い、エンジェルアイランドにやって来た。

ナックルズの小屋へ行き、大きめの籠を取ってくると、フルーツがたわわになっている木の前で、熟したフルーツを丁寧に収穫し始めた。

(いつ来ても豊かで美しい島だ。この間ナックルズがふるまってくれたフルーツジュースも、味が濃くて美味かった)

ふいに、フルーツジュースを飲んだ時の思い出が蘇った。

豪快に笑うナックルズ。

すまし顔のシャドウ。

⋯⋯爽やかな笑顔で軽口を叩く、ソニック。

「ソニック⋯⋯」

ジークはソニックの部屋で鼻にキスされた事を思い出して、思わず鼻に手をやった。

「おっ、ばれた?驚かせようと思ったのに、失敗したか」

突然、ソニックが背後から話しかけてきた。

「ひぃっ?!」

まさか後ろにソニックが来ていたとは思わず、慌てて逃げ出そうとした。

バランスを崩し、無様にずっこける。

「わ⋯⋯わっ⋯⋯!」

腰を抜かして、座り込んだまま、籠を抱えて後ずさった。

背中を背後の木にくっつけて、ソニックを見上げた。

ソニックが頬をかきながら、困り顔で言った。

「そんな、お化けか妖怪に出くわしたみたいな顔しないでくれよ。いや、まぁ、強引に口説こうとし過ぎた俺が悪かったんだけどさ」

「⋯⋯⋯」

「なぁ、もう少し近くに行ってもいいか?」

ソニックが笑顔で尋ねる。

ジークは少し落ち着いた。それから、あまり警戒し過ぎるのも、ソニックに対して失礼だと思い直した。

 「⋯⋯す、好きにしろ。⋯⋯唐突に背後から現れたから、少し動揺しただけだ」

ジークは平静を装いながら、なんとか立ち上がった。それでも心臓が強く跳ねて、ソニックと目を合わせられる気がしない。

「フルーツを籠につめてるのか。ナックルズの手伝いか?」

気さくに話しかけてくるソニックを横に、ジークは、ナックルズの状態を親友のソニックには伝えておくべきかもしれないと思った。

「実は、ナックルズが、今⋯⋯」

言いかけたところで、背後から低い声がした。

「ナックルズはどこへ行った」

「うわぁぁっ!」

再びジークは驚いて後ろに飛び退いた。

「シャ、シャドウ⋯⋯!」

背後に冷たい表情のシャドウが立っていた。

シャドウとはこの間狭い部屋に監禁されて以来の再会だった。

ジークはつい胸のプリズムに片手をかざす。

「そう構えるな。この間はやり過ぎた。今僕はナックルズの居場所を知りたいだけだ」

シャドウが表情を変えず、ずかずかと前に進み出る。

ソニックが遠慮がちに止めた。

「待てって。俺たちは“前科一犯”なんだから。むやみに近付かれるのは、ジークからすれば嫌だろうぜ」

ジークは腫れ物に触るような扱いをされて、居心地の悪さを感じた。

「妙な気遣いはやめろ。俺とて、済んだ話をいちいち引きずるつもりはない」

そう言って、改めてナックルズの事を話そうとしたが、すぐに思い直した。

先程ナックルズは、シャドウを拒んでいるようだった。ナックルズの意志を尊重するなら、その居場所をシャドウには知らせない方がいい。

ジークは籠を抱え、二人に向き直って言った。

「⋯⋯ナックルズは留守のようだ。居場所は知らん。じゃあな」

ソニックの表情が動いた気がしたが、目を合わせず、籠いっぱいのフルーツを背負って逃げるように島を後にした。


フルーツを持って拠点に戻ったジークは、医療室に入り、ベッドで寝ているナックルズの様子を伺った。

「んうう⋯⋯⋯」

ナックルズが気付いて、うっすらと目を開けた。

熱でうだってぼんやりしている。

額にそっと水で冷やした布をのせると、心地よさそうに目を閉じた。

フルーツをナックルズに渡す。

ナックルズは嬉しそうにフルーツを受け取り、口いっぱいに頬張った。

「うん、美味い」

満足そうに笑い、二口、三口と頬張って、ジークに言った。

「お前も食えよ」

ジークも籠の中から小ぶりのものをひとつ取って頬張る。

「瑞々しいな。楽園の味だ」

和やかな雰囲気の中、二人でのんびりとフルーツを食べた。

満面の笑顔でフルーツを頬張るナックルズを見て、ふとジークは、先ほどのシャドウの様子を思い出した。

「そういえば、シャドウがお前を探していたぞ。仲直りをしたがっているんじゃないのか」

途端にナックルズが不貞腐れた顔になる。

「ほっときゃいいんだよ。どうせまた、尻の割れ目を舐めに来たんだろ」

ジークは渋面で黙り込んだ。

しかし、恐らくシャドウは仲直りを望んでいる。ジークは二人が妙な拗らせ方をしたまま断絶の道に向かう事だけはどうしても耐えられなかった。

「シャドウがそこまで強く望むなら、少しくらい許してやるというのはどうだ。シャドウに尻の割れ目を舐められるのがそんなに嫌なのか?」

ナックルズがフルーツをのどに詰まらせてゴホゴホとむせた。

ジークはナックルズの背中を撫でてやる。

ナックルズは鼻筋から頬を真っ赤にして、どもりながら言った。

「なっ⋯⋯だ、だって⋯⋯尻だぞ。な、なん、なんか、変だろ。尻の⋯⋯その、舐めるなんて」

ジークは少し考えた。

恥じらう気持ちはわかる。しかし、契りを交わす以上は、その恥を乗り越えていく必要がある事もジークは知っている。

「契りというのはそういうものだ。相手を信じて、身を委ね、互いに身体を差し出しあうという事だ。尻だろうと尻の割れ目だろうと、契りのために差し出しあうなら、何も恥ずかしい事ではない」

ナックルズの毛並みが逆立つ。

顔をいっそう真っ赤にさせてジークに迫った。

「お、お前は、尻の割れ目を舐めさせろって言われたら、平気で尻を差し出すのかよ!」

「え⋯⋯⋯っ」

ジークの思考が停止する。まさか自分に矛先を向けられるとは思っていなかった。

思わず、ソニックに向かって尻を差し出す自分を想像した。

想像の中で、自分の尻の割れ目に向かって、ソニックが、優しく舌を⋯⋯

「うわぁぁぁ!やめろ!俺の尻にお前がそこまでする価値なんかない!」

ジークは真っ赤になって立ち上がった。

ナックルズが驚いてジークを見上げる。

「な、なんだよ。尻がどうしたって?」

思わずジークが必死で叫ぶ。

「ソ、ソニックは俺の尻なんて欲しがらない!」

ナックルズが大きく首をかしげ、顔をしかめて言った。

「ソニックゥ⋯⋯?もしかしてお前、ソニックに尻の割れ目を舐めさせちまったのか?」

ジークは両手をばたつかせて叫んだ。

「そっ⋯⋯そんな、そんなわけ⋯⋯断じてそんな事態は許されない!尻の話はもういい!忘れろ!傷病人は寝る時間だ!」

ナックルズを横に寝かせると、布団をかけ直し、熱を測った。

「熱がまだまだ高いな。安静にしておけ」

「おう⋯⋯⋯」

布団ごしにそっとナックルズの身体を撫でてやると、ナックルズは目を閉じ、すぐに眠りに落ちた。

しばらくジークはナックルズの寝顔を見ながら、静かに寝息を聞いていた。

(容体は安定している。それなら、一人にしてやった方がいいか)

音を立てないようにゆっくりと立ち上がった。

しかし、布団の中からにゅっと腕がのびてきて、ジークはあっという間に布団の中に引きずり込まれた。

「なっ⋯⋯、おい。ナックルズ⋯⋯」

「んん~」

ナックルズは両腕でがっちりとジークを抱え込み、心地よさそうに息を吐いた。

ジークは腕の中で慌ててもがいたが、逃げられない。

「もぐ」

「でぇっ!」

ナックルズがジークの頭にかぶりついた。寝ぼけているらしい。

「はぐ、はぐ⋯⋯うま⋯⋯」

「う、うう⋯⋯⋯」

ナックルズの幸せそうな寝言を聞いて、ジークは抵抗をやめて力を抜いた。

(仕方ない。このまま好きなように寝かせてやろう)

ジークは目を閉じて、しばらくナックルズの寝息と寝言を聞き続けた。


ジークは、ナックルズの腕の中で少しの間まどろんでいた。

ふと起きてナックルズの額に手を当て、熱を確認する。

なかなか熱は下がらない。

ンフー、とナックルズが寝苦しそうに息を吐く。

額の汗を濡らした布で拭き取り、布団をかけ直すと、医療兵に引き継ぎ、そっと医療室から出た。

拠点を警備している衛兵から異常なしの報告を受け取り、探索チームと再度連絡を取ろうとしたところで、背後に気配を感じ、その場から飛び退いた。

カオスコントロールによる時空の渦ができ、シャドウとソニックがやってきた。

「なっ⋯⋯⋯お前ら?!」

ジークはびっくりして身構えた。

「考えてみれば、ナックルズが留守だとわかっているのに勝手にフルーツだけもいで去るというのが不自然だ。恐らくお前は、もいだフルーツをナックルズに届けようとしていた⋯⋯つまり、お前の行った先にナックルズがいると考えるのが自然だ。⋯⋯ナックルズの所へ案内しろ」

シャドウが淡々と私見を述べる。

ソニックが頭をかきながら言った。

「一応、俺はお目付役って感じで。揉め事は起こさせないようにするからさ」

ジークはたじろいだ。

しらばっくれてナックルズはいないと言い張るか、それともはっきりとナックルズには会わせないと断るか。

シャドウが無言の圧をかける。

(流石に誤魔化しきれないか。ならば⋯⋯)

ジークは一歩前に踏み出して言った。

「確かにナックルズはここの拠点にいるが、今はお前を拒んでいる。理由は俺の口からは語るまい。しかし⋯⋯」

シャドウの片眉がピクリと動く。

ジークは冷静に続けた。

「シャドウ。お前が再び化け物退治を請け負ってくれるというなら、ナックルズがお前を許すよう、俺がなんとか口利きしてやろう」

シャドウがギロリとジークをにらむ。

それから、フッと笑って言った。

「僕の顔を見ても、嘘ひとつつかず、化け物退治の依頼とは⋯⋯なんとも太々しいやつ。いいだろう。ナックルズにはすぐに迎えにいくと伝えておいてくれ」

ジークはさっそく討伐対象の化け物三体分の情報をシャドウに渡した。

「喧嘩の口利きと引き換えに、化け物三体討伐か。遠慮の欠片もないな」

「切羽詰まってるのはお互い様というわけだ」

シャドウのぼやきにジークが淡々と返した。

シャドウは短く息を吐き、ソニックの腕をつかんだ。

ソニックが慌てて腕を振りほどこうとする。

「いや、俺はここに残るぜ。ジークと一緒に拠点の防衛を⋯⋯」

「隙あらばまた口説いてやろうとでも思ってるんだろう。むしろ君の方が化け物討伐に貢献するべきだ」

そう言ってシャドウはソニックを無理やり連れて、化け物討伐へと向かって行った。


ジークはナックルズの元へ戻った。

「うー⋯⋯」

ナックルズが熱にうなされている。

「ナックルズ、苦しいのか」

ジークはナックルズの頭を撫でて言った。

ナックルズがうっすら目を開けた。

「フーッ⋯⋯」

喋るのもおっくうなようで、不快そうに寝返りをうった。

水の入ったコップを口元へ持っていくと、のどを鳴らして飲み、少し笑った。

「ありがとな、シャド⋯⋯⋯」

ナックルズがお礼を言いかけ、口ごもった。

とっさにシャドウの名を出してしまったらしい。

ジークは少し考えて言った。

「シャドウに会いたいなら、連れてきてやろうか」

「い、いらねぇよ⋯⋯もう少し寝ればすぐ治るぜ」

ナックルズは布団に潜り込んだ。すぐに寝息が聞こえくる。

ややあって、ジークはナックルズの小さな寝言を、かろうじて聞き取った。

「嘘つき⋯⋯」


シャドウとソニックは、拠点から少し離れた渓谷で、蛇のような姿の化け物と戦っていた。

身体には出発前にジークが張った薄い結界をまとっている。

そこへジークがテレポートの魔法を使ってやってきた。

蛇の化け物が反応し、ジークへ向かって口から炎を吹き出した。

すかさずソニックが飛び出し、ジークを抱えて谷の上まで一気に駆け上がった。

ジークは慌ててソニックにしがみついた。

蛇の化け物がソニックの背中に炎を吹きかける。シャドウが背後から蛇を追いかけながら叫んだ。

「ソニック、ちょこまか動くな!立ち止まって引きつけろ、タイミングを狙って一撃でしとめる」

「大事なお姫様を抱えたままそんなリスキーな真似できるか!」

「ジーク!もしもの時はソニックを囮にして脱出しろ」

シャドウが表情を変えずに叫び、腕にエネルギーを溜めながら谷間を滑走する。

ふざけんなよ、と言いながらソニックは、ジークを抱えたまま立ち止まり、蛇の正面に対峙した。

蛇が構え直し、炎を吹きかけようと力を込めてのけぞったところを、シャドウの渾身のカオススピアが真っ二つに貫いた。

ジークはソニックにしがみついたまま、ぼんやりと蛇の亡骸を眺めていた。

滅亡後のクアンタは、強い瘴気にまみれ、ネビュロスの率いる化け物たちがそこら中を跋扈し、とてもじゃないが拠点の建設などままならなかった。

それが今は、シャドウの手によってネビュロスが倒され、拠点が建設・増築され、目の前の化け物はシャドウとソニックによって軽々と討伐されている。

(こんなに簡単に、化け物を⋯⋯本当に、創世が実現しようとしているのか)

ジークは創世の実感を噛み締め、ソニックにしがみついたまま、うっとりとした表情で亡骸をみつめ続けた。

ソニックはしばらくジークの横顔を見つめていたが、そのままジークの頬にそっとキスを落とした。

ジークがうっとりした顔のまま、ソニックを見返す。

それから、ようやく我に返り、赤くなって表情を崩しかけたところで、ソニックはジークを地面に降ろして言った。

「悪い、隙だらけだったから、つい。ほんの挨拶だよ、忘れてくれ」

ジークは返す言葉が見つからず、目をそらし、シャドウの方へ走っていった。

ジークを見てシャドウが報告した。

「今ので3体目の化け物の討伐は完了だ。わざわざ応援に来なくとも、この程度なら僕とソニックだけで十分だった」

「お前をナックルズの元へ案内するために来た。⋯⋯ナックルズは今、熱に侵されて苦しんでいる」

シャドウの表情が途端に険しくなった。

ジークは続けた。

「探査チームの洞窟調査に同行したナックルズは、化け物に襲われた他のメンバーを庇って、毒をくらい、倒れてしまった。クアンタの魔法薬との相性が悪く、今も床に臥せって、苦しんでいる」

「何故僕にそれを隠していた」

「ナックルズが強くお前を拒んだからだ。先程もお前と会う意思はないようだった。だが寝言でこうも言っていた。“嘘つき”、と」

「⋯⋯⋯⋯」

シャドウは黙った。

それから、ジークに向き直って言った。

「⋯⋯⋯ずっと側にいると約束した。⋯⋯それは、嘘じゃない」


ジーク、シャドウ、ソニックは、急いで拠点の医療室へ戻った。

シャドウはナックルズの手を取り、静かにナックルズに寄り添い続けた。 

ソニックはジークと二人でシャドウとナックルズを眺めていた。

「静かに寄り添う番⋯⋯うつくしい姿だ」

ジークがぽつりとつぶやいた。

ソニックはフッと笑って、ジークに手を差し伸べた。

ジークがソニックを見やる。

ソニックは首を傾けてウィンクをした。

ジークは黙って、側の籠からフルーツを取り、ソニックの手の上にポンと置いた。 

ソニックは盛大に不満そうな顔をしてフルーツにかぶりついた。

「サンキュー、甘くてうつくしいフルーツだなぁ。でも、もっと甘くてうつくしいものを、俺は知ってるんだけど⋯⋯」

「シャドウとナックルズの事だろう。触れずに眺めるだけにしておけ。熟した果実は指でつつくと崩れてしまうからな」

ジークはそう言って、仕事に戻るために医療室を出た。