第3話「はじめての嫉妬 」

数日後。

シャドウは、今日もカオスコントロールで青空を裂き、エンジェルアイランドの上空へやってきた。

時空の歪みから飛び出し、ゆっくりと島の大地へと降り立つ。

「ナックルズ、調子はどうだ」

「おう、シャドウ。いつも通り、なんてことねぇぜ。空も青くて、島は静かだ」

祭壇の上で、ナックルズが腕を組んだままシャドウを出迎えた。

シャドウは祭壇の上の柱の陰に腰かけ、横を吹き抜けていく風に当たりながら、しばらくの間、静かにナックルズの横顔を見守っていた。


シャドウは、島に来る前に、同僚のエージェント達に依頼して、エンジェルアイランド周辺の上空に戦闘用の無人機を配置させていた。

ナックルズを攫った半身機械の女、レジーナの残した無人機の群れがエンジェルアイランドへ向かってきているという情報を得て、速やかに迎撃態勢を整えたのだった。

その情報を入手した時、すぐにシャドウはナックルズに知らせようと動きかけたが、立ち止まり、すぐに考え直した。

(待て。そもそも、わざわざ彼を不安にさせるような事をいちいち報告する必要があるのか?)

シャドウはもう一度敵側の戦力予想データと自軍側の戦力データを比較し、シュミレーションシステムを起動させ、何度か戦闘シュミレーションを実行した。

何度試しても、結果は勝率99.99%。いうまでもなく、自軍圧勝の予想だった。

(これは彼に報告するまでもなく、こちらで内々に処理しておいた方がいいな)

念のため、エンジェルアイランドに被害が及ばないように、戦闘開始予定地点をやや手前に指定した。シャドウは端末をしまい、ナックルズの元へ向かう準備をしながら思った。

(そもそも彼は、あの島の事についてなんでも一人で背負い過ぎている。彼は自分の弱さに悩んでいるのかもしれないが⋯⋯彼は弱いんじゃない。背負い過ぎなんだ)

シャドウはそう結論づけて、諸々の雑務を終えると、カオスコントロールで速やかに島へと移動したのだった。

「ナックルズ、ところで⋯⋯島の西側は、どんな風になっているんだ?」

「どうって⋯⋯森を抜けたら、遺跡と、小さな泉と、あとは花畑があるくらいだな。気になるなら、案内してやろうか?」

「ぜひ頼む」

柱の陰に腰かけてナックルズを見守っていたシャドウは、立ち上がって、ナックルズについていった。

(そろそろ島の東側上空で無人機同士が衝突を開始する。念のためナックルズは、島の西側へ誘導しておこう)

ナックルズに案内されて、シャドウは森を抜け、泉を眺め、遺跡を歩き、断崖の手前にある花畑へやってきた。

「今の季節は、ちょうどこの黄色い花が一面に咲いてんだ。日当たりのいい日は、昼寝をするのにちょうどいいぜ」

開けた野原の一面に、背の低い黄色の花が咲き乱れている。

よく澄んだ青空の下で、小鳥の鳴き声が響き、風は穏やかで、そこはまさに楽園の花畑だった。

「なるほど、見事な景色だ」

シャドウはそう言って、花畑の端から端までをゆっくりと見渡した。
崖の方に顔を向けた時、一面の黄色い花畑に悠々と立つ、赤い毛並みのハリモグラが視界の真ん中に入り込んだ。

鮮やかな黄色の花に囲まれ、さんさんと日の光を浴びるナックルズを見て、シャドウはうっとりと目を細めた。

(なんて、うつくしい姿をしているんだろう)

しばらく、時を忘れてナックルズに見入っていると、ナックルズが視線をこちらに向けて、笑いかけてきた。

「なにぼんやりしてんだよ。でも、綺麗だろ、ここの花」

「いいや。この島で、一面の花畑より、もっとうつくしい存在を僕は知っている」

シャドウの口から、反射で本音が飛び出した。

シャドウは言った直後に、自分で驚き、自分の口を押さえて横を向いた。

「へ⋯⋯本当かよ。なんだ、それ?」

ナックルズが興味深そうに目を丸くして近づいてきた。

「い、いや、その⋯⋯⋯」

心臓が跳ねるように高鳴り、シャドウは大きく唾を飲み込んだ。

下を向き、険しい顔をした後、覚悟を決めて、その名を口にしようとしたその時───

遠くから、連続で爆発音が響いた。

ナックルズが素早く顔を上げ、音のした方角をにらむ。シャドウは低い声でナックルズに説明した。

「案ずる事はない。エージェントの無人機部隊が、この付近の空で、レジーナの無人機の残党狩りを始めただけだ」

ナックルズは表情を変えずにシャドウをじっと見つめていたが、踵を返し、音のした方角へ向かって全速力で駆け出した。

シャドウが少し遅れて追いかける。島の反対側についた頃には、戦闘はほぼ終了し、絶壁からは、エージェントの操作する無人機部隊が、残る少数の敵機を殲滅させようと、並んで旋回している姿が見てとれた。

「なんで⋯⋯」

ナックルズが無人機を見つめながらつぶやいた。

「俺に何も言わずに、俺の島の近くで、何やってんだ」

シャドウが後ろから話しかける。

「君に余計な負担をかけたくなかったからだ。見ての通り、エージェント軍だけで圧勝。君や僕が出るまでもない戦いだしな。そもそも、君はこの島の事について、なんでも一人で背負い過ぎだ⋯⋯」

「勝手に決めんな!」

大きな怒鳴り声が、周囲の空気を震わせた。ナックルズはドカドカと荒い足音を立てて、シャドウに詰め寄った。

「俺はこの島の守護者だ。島のこと、エメラルドのこと、島やエメラルドを狙う敵のこと。そもそも全部、俺の問題なんだよ!」

「それは分かっている。だからこそ――」

「だったらなんで、島の付近の空で戦いが起きるって事を俺に黙ってた!?戦場の反対側に俺を連れていったのも、もしかしてわざとなのか?⋯⋯俺が弱いからか?頼りないからか?また無人機に攫われて、情けなく泣きわめくんだろうとでも思ったのか?」

胸の奥が、ずきりと大きく痛んだ。

「ちがう⋯⋯ちがうんだ、ナックルズ。決してそんなことは――」

「じゃあなんで、俺に知らせずコソコソと勝手な事してんだよ!」

ナックルズの紫の瞳が、真っ直ぐシャドウを射抜いた。

シャドウは、心臓を槍で射抜かれたように震え、動けず、辛うじて半歩後ろに下がり、うつむいてうなだれた。

「⋯⋯すまない。二度と余計な真似はしない」

シャドウはそれ以上の言葉もなく、うつむいて立ち尽くしていた。

ナックルズは、大きくため息をつくと、ドカドカと足音を立て、祭壇の方へと立ち去っていった。

しばらくの間、シャドウは魂の抜けた空っぽの抜け殻のように、風に吹かれて立ち尽くしていた。

所持していた情報端末の通知が鳴り、ようやくシャドウは我に返った。

カオスコントロールでエージェント用の施設に帰還したが、その夜シャドウは全く寝付けなかった。

(僕がナックルズを、深く傷つけてしまった)


昼下がりのセントラルシティ。

街外れのチリドッグ屋の店内で、ソニックはお気に入りのチリチーズを頬張っていた。

「相談がある」

突然背後から低い声で話しかけられ、ソニックは口の中のチーズを吹き出しそうになった。

「ふ、ふざけんな。⋯⋯シャドウ、いつも言ってるだろ。話しかける時は前から来いって。特にチリドッグを食ってる時は⋯⋯」

「相談があると言っている」

「わかったよ、うるさいな!⋯⋯でも珍しいな、お前から相談なんて。任務の話か?それとも世界滅亡の危機?」

ソニックは即座に気持ちを切り替え、コーラのストローをくわえながら軽口を叩いた。シャドウが真向かいの椅子に座り、話を切り出した。

「僕が不用意な判断をしたせいで、ナックルズを傷つけた。解決策が知りたい」

ソニックは少し目を丸くしてシャドウを見つめたが、セットのフライドポテトを一本口に放り込み、テーブルに肘をついて言った。

「別に、そんな事。謝ればいいじゃないか。ごめんな、次から気を付けるよって。ナックルズは小さい事を長々と引きずるようなやつじゃないぜ」

「小さい事なわけがあるか。彼の誇りに関する問題だ」

ソニックは残ったチリチーズを口の中に放り投げ、少し考えて言った。

「お前ってさぁ⋯⋯⋯ナックルズの何なわけ」

シャドウが黙ってソニックをにらみつけた。鋭く尖った赤い瞳から、容赦なく殺気が漏れる。ソニックは苦い顔をして、仕方なく言い方を変えてみた。

「ナックルズの事、好きなのかよ」

「好きなどと、そんな曖昧で抽象的な感情は──」

シャドウは言いかけて、真顔で付け足した。

「君の事は明確に嫌いだな」

「よーく伝わってるぜ、ありがとよ。そうじゃなくて、ナックルズの事は⋯⋯」

「興味はある。だが、彼を傷つけたいわけじゃない」

シャドウが少し目線を横にそらした。ソニックはポテトをかじり、シャドウの横顔を眺めながら言った。

「好きになったら傷つけるって、どうして決めつけるんだ。そもそもお前は、ナックルズの事、なんにもわかってないじゃないか」

シャドウが顔をそらしたまま、横目でソニックをにらむ。ソニックは半笑いで椅子にのけぞり、口にくわえたポテトを器用にひらひらと振った。

「あいつがどんな気持ちであの島に立ってるのか、今まであいつの身にどんな事が起きたのか、たった一人で一体何を背負おうとしてるのか。お前はなんにもわかっちゃいないんだ」

音を立ててコーラを吸い込み、残りのポテトを口の中に放り投げ、得意げにソニックは言った。

「⋯⋯つまりな、焦る必要なんてないんだよ。お前とナックルズ、お互いゆっくり一緒に過ごして、ゆっくり仲良くなっていけば、きっとそのうち⋯⋯」

笑顔で正面を見直した。

シャドウはいない。正面の椅子はすでにもぬけの殻だった。

「落ち着きねぇな!俺じゃあるまいし!」

ソニックのいらついた怒声が騒がしい店内にむなしく響いた。

それから数日が経った。

シャドウはめっきり、ナックルズの前に姿を現さなくなってしまった。

ナックルズは、マスターエメラルドの前で腕組をして立ち、何かの音がするたびに首を向けてそっちを向いた。しかし、落ち着いた物腰で穏やかな視線を向けてくる、あの黒いハリネズミはそこにはいない。

ナックルズはため息をついて、祭壇の頂上に、一人で静かに立ち続けた。


数日後、ナックルズは、ソニックに誘われてセントラルシティに降り立った。

大規模なフリーマーケットが開催されるので、祭壇や遺跡の修理に使える道具類の掘り出し物を見つけるためだった。のんびりと市場を歩き回りながら、ふと市場のすぐ隣りに併設されているカフェのテラス席を見やった。

黒いハリネズミが、テラス席に腰かけ、知らない女性に向かって熱心に話しかけていた。

ナックルズは思わず立ち止まり、シャドウの様子を見守った。

シャドウはどこか熱っぽい表情で、女性の説明に聞き入っている。時折、質問を挟み、情報端末に何かを入力している。テーブルに置かれたコーヒーに手もつけず、夢中で女性の話を聞いているようだった。

「どうしたナックルズ、何を見てるんだ?」

ソニックが背後からヒョイッと顔をのぞかせ、視線の先のシャドウを見つけた。

「カラナだ。シャドウと一緒にいるなんて、あいつら知り合いだったのか」

「誰だ?ソニック、お前、あの女の事を知ってるのか」

「ちょっと前、冒険した先で知り合ったんだよ。考古学の専門家だ。⋯⋯ああ、彼女、古代の歴史や文化に詳しいしな。シャドウのやつ、エキドゥナ族について、カラナに色々教えてもらってるんじゃないか?」

ソニックが頭の後ろに手を回し、ニヤリと笑った。先日ソニックは、シャドウに向かって言った言葉。

“あいつがどんな気持ちであの島に立ってるのか、今まであいつの身にどんな事が起きたのか、たった一人で一体何を背負おうとしてるのか。お前はなんにもわかっちゃいないんだ”

ソニックが意図した以上に、シャドウの心に突き刺さってしまったのかもしれない。

「ハハッ、シャドウのやつ、必死だな。こんな天気のいい真昼間に、カフェで歴史のお勉強とはね」

「エキドゥナの事が知りたきゃ、俺に聞いてくれりゃいいじゃねぇか⋯⋯」

ソニックはハッとしてナックルズを見た。
尻尾が真下に垂れ下がり、しょんぼりした顔で肩を落としている。

「ナックルズ。あのな、ああ見えてシャドウは、お前の事を⋯⋯⋯」

ソニックは慌てて弁明しようとして、やめた。

シャドウなりにナックルズの事をまっすぐ考えて、悩んで、答えが出なくてソニックに相談に来た。

そしてきっと、ナックルズの事をもっと理解するために、考古学の専門家に会い、必死にエキドゥナの歴史を学ぼうとしている。

(俺が横から勝手に、シャドウの気持ちをあれこれ代弁しちまうのは、なんか違うよな)

ソニックは腕を組んでウーンとうなり、考え込んでいたが、パッと明るい顔になり、ナックルズと肩を組み、耳元で囁いた。

「なぁ、ナックルズ。今はシャドウのことなんて忘れて、俺と思いっきり遊ぼうぜ?」


ソニックはナックルズの腕を引っ張り、なかば強引に、セントラルシティの片隅にある小さな遊園地へやって来た。

「この遊園地、小さいけど、結構いろんな遊び場があるんだぜ」

ソニックはそう言ってフリーパスのチケットを二人分購入すると、自分の情報端末を取り出し、誰かに宛ててメッセージを送り、ニヤリと笑うと、ナックルズを引っ張り、乗り物コーナーへ走っていった。

真っ青なゴーカートの助手席にナックルズを押し込み、フルスロットルで発進する。

「ヒャッホーッ!見ろよ、この俺の華麗なドライブテクを!」

ノリノリでソニックはハンドルを操作する。ナックルズが呆れた顔でソニックに突っ込んだ。

「なんだ、こんなおもちゃの車。お前、自分で走った方が速いだろうが」

ソニックは、ハッと息を吐いて薄く笑うと、わざとハンドルを強く回して、側面の低い壁にカートを突っ込ませ、車体を揺らせて煽ってみた。

「おわぁ!何しやがる!」

「急な揺れにご注意くださーい。怖けりゃ、俺にしがみついてていいんだぜ、ナックルズちゃん」

「舐めんな!もういい、俺にハンドルよこせ」

「あ、馬鹿、壊れる、壊れるって、お前の本気の握力は!」

なんだかんだで、二人は大笑いしながらゴーカートを楽しんでいたが、三周目に入ったところで、ソニックがちらりと横目で何かを見た後、ピュウと口笛を吹いた。

「なんだよ」

「別に。そろそろ、次のところへ行こうぜ」

ソニックはナックルズをゴーカートから降ろし、ボールプールへ連れていった。網に包まれた空間の中に、カラフルなボールが敷き詰められている。

ソニックはナックルズをボールプールに軽く突き落とし、続いて自分も思いっきりボールの海へダイブした。

「イエーイ!ここで野球をやれば、目をつぶっててもヒット量産間違いなしだよな」

「なんだよ、この子供だましの遊び場は!」

「そら、打ち返してみろよ!超魔球、“ボールがいっぱい”」

「ボールたくさん投げただけじゃねえか!」

二人ははしゃぎながらボールをぶつけあっては、ダイブした。ナックルズがボールに足を取られて、ひっくり返り、ゲラゲラと一人で笑う。

ソニックがふっと背後を見やって、ニヤリと笑った後、ナックルズをそっと優しく抱き起した。

「よーし大丈夫だ、ナックルズ。お前がずっこけた時は、いつでも俺が起こしてやるからな⋯⋯」

「やめろ。なんだ急に、薄気味悪い。そろそろ出ようぜ」

ナックルズがソニックを軽く小突いて、出口へ向かった。

すると、出口付近で一瞬何か黒い物が動いた気がして、ナックルズは目をこすった。

「んん⋯⋯?」

ソニックが苦笑してナックルズの肩を抱き、出口に誘導した。

「何か見えたなら、きっと気のせいだぜ。それより、次はコーヒーカップだ」

ソニックはナックルズをコーヒーカップに乗せて、中央のハンドルを思いっきり回そうとした。

すかさずナックルズがソニックを突き飛ばし、力の限りハンドルを高速回転させた。

「だああああ!回しすぎだああああ」

「うははは、どうだソニック、俺の本気を思い知ったか」

ナックルズがゲラゲラ笑いながら、ハンドルを全力で回していたが、そのうち目元がおぼつかなくなり、回転するカップの背もたれに勢いよく倒れ込んだ。

「ん、んん、おえ⋯⋯気持ちわる⋯⋯」

「やりすぎだよ、ったく」

ソニックがハンドルを逆方向に回し、なんとかカップの回転を抑えさせた。

「大丈夫か?姿勢を楽にしてろよ」

「うーっ⋯⋯ちくしょう、俺は負けねぇぞ⋯⋯」

「何と戦ってんだよ、お前は」

ソニックが苦笑して、悔しそうにうめくナックルズを仰向けにもたれかけさせたが、ふと周囲を見渡して、ため息をついた。

「ハァ⋯⋯ここらで思いっきりやんないと、生殺しにしかならないのかね」

ソニックはナックルズを見つめて、肩に手を置いた。

「なぁナックルズ。俺たちって、仲良しだよな」

「はぁ?わかんねぇよ、急にそんな事言われても⋯⋯」

「つまりさぁ。⋯⋯こういう事!」

ソニックは、身体を前に乗り出して、ナックルズの頬に思いっきりキスをした。

ナックルズはぽかんと口を開けて、ソニックを見た。

その後、頬に手を当てて、何かを言おうとした瞬間───

突風が吹いて、衝撃波と共に、ソニックの身体が真横に吹っ飛んで転がっていった。

「ソニック?!」

ナックルズが叫ぶと同時に、いくつものカップが回る大きな盤面の上に、黒いハリネズミがストンと着地した。

「お⋯⋯あ⋯⋯⋯シャドウ?!」

シャドウは、肩で激しく息をしながら、吹っ飛んで倒れたソニックを、殺気のこもった目でにらみつけていた。

「よ⋯⋯よくも⋯⋯軽々しく、彼の頬に⋯⋯⋯」

ナックルズは、一瞬意味が理解できなくて、呼吸を忘れてシャドウを見つめた。それからようやく我に返り、身を乗り出してシャドウに向かって叫んだ。

「シャドウ!お、落ち着け!なんでお前が怒ってんだよ!」

シャドウがギロリとナックルズをにらむ。

「君はもっとソニックに怒るべきだ」

「な⋯⋯おっ、俺は別に⋯⋯っていうかお前、なんでここにいるんだよ」

シャドウはそう聞かれて、みるみるうちに正気に戻り、それから顔面が真っ青になっていった。

「ちっ⋯⋯ちがう。ぼ、僕は⋯⋯誤解だ。君を尾行していたわけじゃない。たまたま近くを歩いていただけで⋯⋯」

「たまたまって⋯⋯ここ、遊園地だぞ。チケット買って、一人でここを散歩してたのか?」

ナックルズが首をかしげて、素朴な質問をシャドウに投げた。

シャドウは真っ青な顔のまま、とうとう疾風のごとき速さで、その場から逃げ去ってしまった。

「あ⋯⋯ま、待てよ、シャドウ⋯⋯!」

コーヒーカップの回転が止まり、ナックルズは慌てて乗り場から出て、シャドウを追いかけた。

実はシャドウを誘い出したのは、ソニックだった。

ソニックは、遊園地に着くと同時に、シャドウの情報端末へ向けてメッセージを送っていた。

“俺は今からナックルズとセントラルシティ北の小さな遊園地でデートする。お前は邪魔だから、絶対に来るなよ!”

ナックルズがシャドウに追いつくよりも早く、ソニックが起き上がって駆け抜け、シャドウの腰元に飛びついた。

「逃げんなっての。俺がした事が気に食わないんだろ。だったら、お前のやり方でナックルズと触れ合ってみろよ!」

ソニックはそのままシャドウを担ぎ上げ、ナックルズの元へ駆け寄った。右手でシャドウを抱え、左手でナックルズを引っ張り、観覧車の列へ飛び込んだ。

「そちらの三名様、次のゴンドラへどうぞー」

間延びしたスタッフの声が終わるより早く、ソニックは二人を観覧車に押し込み、自分も乗って、扉を素早く閉めた。

「いってきまーす」

ソニックの掛け声と共に、ぐんぐんと三人の乗ったゴンドラは高度を上げていった。ソニックはしばらく呑気に外の景色を眺めていたが、一向に喋らない二人をチラリと見やり、頭を掻いて言った。

「なぁシャドウ。せっかくの観覧車デートなんだぜ。俺の付き添いがセットだけど。なにか気の利いた事でも言えよ」

膝の上で拳を握りしめて黙りこくるシャドウの代わりに、ナックルズが不機嫌そうな声で文句を言った。

「何がデートだよ。俺たち、無理やりお前にぶち込まれただけじゃねえか」

「なんだよ、ナックルズ。お前だって、ちょっと前まで、シャドウに何か言いたい事あったんじゃないのか」

ソニックの挑発に、ナックルズが言葉を詰まらせる。それからナックルズは、思い切ったように前を向き、シャドウに向かって喋り出した。

「シャドウ。エキドゥナ族について、何か調べてたのか?カフェで女と話してたろ。⋯⋯どうして、俺に直接聞いてこないんだ」

シャドウが思わず顔を上げた。

「あ⋯⋯あれは⋯⋯その⋯⋯僕は、君の生まれ育ちや、君の一族の歴史について、何も知らないという事に気付いたんだ」

シャドウが視線を彷徨わせながら続ける。

「何も知らないくせに君に意見をするのは、確かに失礼だと気付いた。それでせめて、少しでも何か君についての情報を集められればと思って、古代文化の専門家に、エキドゥナ族についての話を聞かせてもらっていたんだ」

ナックルズがしかめっ面でシャドウに迫った。

「聞けよ。直接、俺に」

「そ⋯⋯そうか。そうだな。すまない⋯⋯⋯」

ナックルズはフンと鼻を鳴らして、背もたれに身体を預けた。

「別に、知らねぇなら知らねぇでいいんだよ。俺も別に、お前の事をなんでも知ってるわけじゃねぇしな」

シャドウが肩をすくめて、うつむいた。ナックルズが肩を揺らして、頬を掻きながら言った。

「俺がこないだ怒っちまったから、お前が島に来なくなった。それで今日、考古学者の女に、夢中でエキドゥナ族の話を聞いてるのを見て、その⋯⋯俺の事、もういらなくなっちまったんだって思ったんだ」

「そんなわけ⋯⋯!」

「だって、俺じゃなくて、あの女から話を聞きたかったんだろ。俺の事なんて必要ないって事じゃねぇか」

「誤解だ!僕が君に会いに再びあの島へ行くために、どれだけの反省と贖罪の気持ちで今日まで過ごして来たと思ってるんだ!」

「しょ、しょくざい⋯⋯?」

ナックルズが困惑の表情を浮かべた。ソニックがたまらず横から割って入った。

「つまり、お互いに仲直りがしたいって事だよな」

シャドウとナックルズが、お互いに顔を見合わせる。それから、気まずそうにお互い目をそらした。

「いいぜ、二人とも。俺、後ろ向いて、目をつぶっているからな」

ソニックが窓の方を向いて両手で顔を覆ったが、ナックルズに尻を蹴飛ばされて顔面から窓にぶつかった。

「何すんだ、この石頭!」

「意味はわからねぇが、馬鹿にしやがっただろ」

「伝わらねぇな、真心が!ただの応援と祝福と挑発だっての!」

「やっぱり馬鹿にしてんじゃねぇか!」

ソニックとナックルズは、結局ゴンドラが下に着くまで、ギャアギャアと言いあいの喧嘩を止めなかった。シャドウはナックルズの元気そうな様子を見て、二人に気付かれないように、ほっと胸をなでおろした。

三人は観覧車を降りると、そのまま遊園地の出口へ向かった。

ソニックは背伸びをした後、二人に向き直って笑った。

「なぁナックルズ、シャドウ。次はちゃんと、三人で遊びに来ようぜ」

「気が向いたらな」

「ナックルズが行くというなら、検討はしておく」

ソニックは片手を軽く上げると、そのまま彼方へと走り去っていった。

「カオスコントロールで島へ送ろう」

「おう⋯⋯悪いな」

夕日が二人の背を照らす。

ナックルズが振り向き、立ち止まって夕日を眺めた。黄金色に輝くナックルズの毛並みを見て、シャドウは目を細めた。

それからナックルズの頬を見て、つい先ほどのソニックがやった事を思い出した。

(⋯⋯よくも⋯⋯軽々しく、彼の頬に⋯⋯⋯)

シャドウは衝動的に、ナックルズの腕をつかんで引き寄せた。

「ナックルズ⋯⋯!」

「え⋯⋯あ⋯⋯?」

両手でナックルズの頬をつかみ、ぶつかる程近くまでナックルズの顔を、自分の顔に引き寄せる。

唇が触れるギリギリの距離まで二人の顔が近づき───シャドウはナックルズを、思いっ切り突き飛ばした。

「ぐえぇっ!」

ナックルズがゴロゴロと転がって飛んでいき、壁にぶつかり、道の端の側溝に落ちていった。

「ナ、ナックルズ⋯⋯!すまない、怪我はないか」

大慌てでナックルズを抱え起こし、怪我の有無を確認した。

「お、おう⋯⋯なんか俺、ゴミでもついてたか?」

ナックルズが両手で顔をゴシゴシと擦る。シャドウはどもりながら言い訳した。

「あ⋯⋯い、いや、気のせいだ。夕日で君の毛並みが光っていたから⋯⋯」

ナックルズはフン、と鼻を鳴らすと、なんでもない顔で、シャドウの肩に手を置いた。シャドウは必死にポーカーフェイスを気取り、カオスコントロールでエンジェルアイランドに向かった。

(彼を守りたい。傷つけたくない。⋯⋯でも、足りない。もっと欲しい⋯⋯⋯)

ナックルズを島まで送り帰し、シャドウは一人、世界政府が所有するエージェントの拠点に帰還した。

夕日に照らされ輝くナックルズの毛並みを思い出しながら、心の中でそっと誓う。

(次に会う時こそは、まっすぐ彼に向き合ってみよう)