明るい日曜日の昼下がり。
陽気に浮き立つセントラルシティで、ナックルズはソニックと並んで新しくできたゲームセンターにいた。
──たまには、ソニックの暇つぶしに付き合ってやるのも悪くない。
そんな程度の気持ちで、ナックルズはソニックと共に、思いつくまま筐体を渡り歩いていた。
ふと、ナックルズの視線がゲームセンターに併設された小さなケーキ屋のショーウィンドウに向いた。
白やピンクの小ぶりなケーキが整然と並んでいる。ふと、甘いものから連想して思い出す。
少し前にシャドウがくれたクッキー。
古くなったので、ルージュと一緒に食べ切ってしまった。
ルージュは新しいお菓子を、シャドウと二人で買いに行けばいいと言っていた。
じっとケーキを眺めていると、ソニックが気付いた。
「なんだよ、ケーキ食べたいのか?」
ナックルズは、以前残しておいたクッキーの話をした。
古くなってしまったので、全部食べてしまったこと。ルージュに言われた言葉。
そして、
「シャドウと一緒に買いに行けたらいいなと思ってたんだけど、あいつも忙しいよな。俺も美味しいクッキーの選び方なんてわかんねぇし」
と付け加えた。ソニックは笑った。
「なら一緒にクッキー探しに行こうぜ。美味しいクッキー探しは俺が手伝ってやるから、お前がクッキー買って、シャドウに渡してやれよ。それを二人で食べればいいだろ」
その言葉に、ナックルズの表情がわずかに明るくなった。
「シャドウが喜ぶクッキーなんて、うまく見つかるかわかんねぇぞ」
目をそらし、鼻のあたりをかきながら言うナックルズの腕を、ソニックは軽く引いた。
「文句なんか言われたらぶん殴ってやれ。お前の選んだクッキーが不味いわけないだろ」
二人は近くのショッピングモールへ向かって歩き出した。
一方その頃。
セントラルシティのショッピングモール内にある古道具屋から、シャドウが雑務を終えて出てきたところだった。
ちょっとした依頼品の修理を店主に託し、今日の仕事は早めに終わったと胸の内で一区切りをつける。
店先の手すりを越えた先に、赤と青の鮮やかな毛並みが目についた。
ソニックとナックルズが、スイーツショップのショーケースを覗き込んで話し込んでいる。
ソニックが商品の説明書きに目を落としながら、ナックルズに何か教えている。
ナックルズは質問したり、考えたり、真剣な表情のまま視線を動かしている。
ソニックはナックルズの親友だった。二人が一緒に買い物をしていても、不思議ではない。嫉妬する理由もない。
⋯⋯それでも、胸の奥が落ち着かなくなる。
ナックルズが、島でシャドウといる時とは、どこか違う雰囲気でソニックに向かっている。
どこか浮つくような、期待を含んだ目の色。
──あの視線を、彼の隣でまっすぐ受けたい。
衝動が胸に立ち上る。走り寄って、割り込んで、ナックルズの表情を奪い取りたい。
──ソニックばっかり、ずるい。
唐突に沸き起こったあまりにも幼稚な本音に気分が悪くなり、シャドウは顔を固くし、鋭い視線を向けた。
その瞬間、ソニックと目が合った。
強張ったシャドウの表情に気付いたソニックは、わずかに苛立つ。
(なんだよ、お前のために買い物してやってんだよ。別にデートしてるわけじゃないっての)
次の瞬間、懲りずに意地の悪いいたずらが胸に浮かぶ。
ナックルズの肩をぐっと抱き寄せ、その頬に迷いなく頬ずりをした。
ナックルズは、クッキー選びに集中している。
「なんだよ、今忙しいんだ」
そう言って抵抗もせず、ショーウィンドウから視線を外さない。ソニックは笑ったまま、シャドウに視線を返した。
シャドウの毛並みが逆立ち、怒りで目が吊り上がった。
しかし、ハッと目を見開いた後、すぐにその瞳が揺らぎ、寂しげな色を宿してうつむいた。
そしてそのまま、ソニックに背を向けて、去っていってしまった。
(あああ⋯⋯まずい、やり過ぎた)
数分後、ナックルズがクッキーをいくつか選び終えて振り向いた時、そこにソニックの姿はもうなかった。
ソニックは急いでシャドウを追い、ようやく追いつくとこう言った。
「ナックルズのやつ、俺に文句ばっかり言ってむかつくから、置いてけぼりにしてやったぜ。あいつ今頃一人ぼっちで寂しがってるだろうけど、俺は知らないからな」
その瞬間、シャドウの表情が豹変した。
「僕のナックルズを悲しませたな!」
鬼のような形相で叫び、ソニックに掴みかかった。ソニックはつい目を丸くした。
シャドウ自身も、自分の口から出た言葉に動揺し、あわてて手を下ろした。
すぐにソニックが口角を上げて言った。
「“お前の”ナックルズが、寂しがってるぜ」
シャドウは、一陣の風のように疾走し、ソニックの前から消えた。
ソニックはそっとナックルズのいた方へ戻り、柱の影から様子を伺った。
シャドウは必死にナックルズを励まそうとしていた。
「君は悪くない⋯⋯」
「ソニックの事など気にするな」
途切れ途切れに聞こえてくるシャドウの声。
ソニックは黙って頭をかいた。悪役を買って出た自覚はある。
ナックルズはうつむき、小さく何かをつぶやきながらクッキーを差し出した。
シャドウは震える手でそれを受け取り、ナックルズは少し笑った。
そして二人はゆっくりと並んで歩き、ショッピングセンターの出口へ向かった。
雑踏に二つの背中が紛れて消えていくのを見届けてから、ソニックは一人笑った。
「次にナックルズに会った時文句を言われたら⋯⋯シャドウ、お前のせいだ。覚えとけよ」
軽やかな足取りで、雑踏に紛れていった。