第14話「日曜日のクッキー」

明るい日曜日の昼下がり。

陽気に浮き立つセントラルシティで、ナックルズはソニックと並んで新しくできたゲームセンターにいた。

──たまには、ソニックの暇つぶしに付き合ってやるのも悪くない。

そんな程度の気持ちで、ナックルズはソニックと共に、思いつくまま筐体を渡り歩いていた。

ふと、ナックルズの視線がゲームセンターに併設された小さなケーキ屋のショーウィンドウに向いた。

白やピンクの小ぶりなケーキが整然と並んでいる。ふと、甘いものから連想して思い出す。

少し前にシャドウがくれたクッキー。

古くなったので、ルージュと一緒に食べ切ってしまった。

ルージュは新しいお菓子を、シャドウと二人で買いに行けばいいと言っていた。

じっとケーキを眺めていると、ソニックが気付いた。

「なんだよ、ケーキ食べたいのか?」

ナックルズは、以前残しておいたクッキーの話をした。

古くなってしまったので、全部食べてしまったこと。ルージュに言われた言葉。

そして、

「シャドウと一緒に買いに行けたらいいなと思ってたんだけど、あいつも忙しいよな。俺も美味しいクッキーの選び方なんてわかんねぇし」

と付け加えた。ソニックは笑った。

「なら一緒にクッキー探しに行こうぜ。美味しいクッキー探しは俺が手伝ってやるから、お前がクッキー買って、シャドウに渡してやれよ。それを二人で食べればいいだろ」

その言葉に、ナックルズの表情がわずかに明るくなった。

「シャドウが喜ぶクッキーなんて、うまく見つかるかわかんねぇぞ」

目をそらし、鼻のあたりをかきながら言うナックルズの腕を、ソニックは軽く引いた。

「文句なんか言われたらぶん殴ってやれ。お前の選んだクッキーが不味いわけないだろ」

二人は近くのショッピングモールへ向かって歩き出した。

一方その頃。

セントラルシティのショッピングモール内にある古道具屋から、シャドウが雑務を終えて出てきたところだった。

ちょっとした依頼品の修理を店主に託し、今日の仕事は早めに終わったと胸の内で一区切りをつける。

店先の手すりを越えた先に、赤と青の鮮やかな毛並みが目についた。

ソニックとナックルズが、スイーツショップのショーケースを覗き込んで話し込んでいる。

ソニックが商品の説明書きに目を落としながら、ナックルズに何か教えている。

ナックルズは質問したり、考えたり、真剣な表情のまま視線を動かしている。

ソニックはナックルズの親友だった。二人が一緒に買い物をしていても、不思議ではない。嫉妬する理由もない。

⋯⋯それでも、胸の奥が落ち着かなくなる。

ナックルズが、島でシャドウといる時とは、どこか違う雰囲気でソニックに向かっている。

どこか浮つくような、期待を含んだ目の色。

──あの視線を、彼の隣でまっすぐ受けたい。

衝動が胸に立ち上る。走り寄って、割り込んで、ナックルズの表情を奪い取りたい。

──ソニックばっかり、ずるい。

唐突に沸き起こったあまりにも幼稚な本音に気分が悪くなり、シャドウは顔を固くし、鋭い視線を向けた。

その瞬間、ソニックと目が合った。

強張ったシャドウの表情に気付いたソニックは、わずかに苛立つ。

(なんだよ、お前のために買い物してやってんだよ。別にデートしてるわけじゃないっての)

次の瞬間、懲りずに意地の悪いいたずらが胸に浮かぶ。

ナックルズの肩をぐっと抱き寄せ、その頬に迷いなく頬ずりをした。

ナックルズは、クッキー選びに集中している。

「なんだよ、今忙しいんだ」

そう言って抵抗もせず、ショーウィンドウから視線を外さない。ソニックは笑ったまま、シャドウに視線を返した。

シャドウの毛並みが逆立ち、怒りで目が吊り上がった。

しかし、ハッと目を見開いた後、すぐにその瞳が揺らぎ、寂しげな色を宿してうつむいた。

そしてそのまま、ソニックに背を向けて、去っていってしまった。

(あああ⋯⋯まずい、やり過ぎた)

数分後、ナックルズがクッキーをいくつか選び終えて振り向いた時、そこにソニックの姿はもうなかった。

ソニックは急いでシャドウを追い、ようやく追いつくとこう言った。

「ナックルズのやつ、俺に文句ばっかり言ってむかつくから、置いてけぼりにしてやったぜ。あいつ今頃一人ぼっちで寂しがってるだろうけど、俺は知らないからな」

その瞬間、シャドウの表情が豹変した。

「僕のナックルズを悲しませたな!」

鬼のような形相で叫び、ソニックに掴みかかった。ソニックはつい目を丸くした。

シャドウ自身も、自分の口から出た言葉に動揺し、あわてて手を下ろした。

すぐにソニックが口角を上げて言った。

「“お前の”ナックルズが、寂しがってるぜ」

シャドウは、一陣の風のように疾走し、ソニックの前から消えた。

ソニックはそっとナックルズのいた方へ戻り、柱の影から様子を伺った。

シャドウは必死にナックルズを励まそうとしていた。

「君は悪くない⋯⋯」

「ソニックの事など気にするな」

途切れ途切れに聞こえてくるシャドウの声。

ソニックは黙って頭をかいた。悪役を買って出た自覚はある。

ナックルズはうつむき、小さく何かをつぶやきながらクッキーを差し出した。

シャドウは震える手でそれを受け取り、ナックルズは少し笑った。

そして二人はゆっくりと並んで歩き、ショッピングセンターの出口へ向かった。

雑踏に二つの背中が紛れて消えていくのを見届けてから、ソニックは一人笑った。

「次にナックルズに会った時文句を言われたら⋯⋯シャドウ、お前のせいだ。覚えとけよ」

軽やかな足取りで、雑踏に紛れていった。