第26話「ポップコーン・パニック」

「いいのか?⋯⋯サンキュー、友達誘って行ってみるよ!」

ある日、ソニックは上機嫌で知人に向かって礼を言った。手には三枚の遊園地の無料チケット。

以前、セントラルシティの中にある小さな遊園地にナックルズと遊びに行ったが、このチケットは、中央の都市群から離れた郊外にある、もっと大きな遊園地のものだった。

トラブルに巻き込まれ、困っていた知人をたまたま見かけたので、思わず手助けをしたら、そのお礼にと、このチケットを手渡してくれた。

「三枚か⋯⋯ナックルズと、シャドウも誘ってやるか」

ソニックは、テイルスとエミーを誘うか迷ったが、つい先日その二人と焼肉の食べ放題に行ったばかりだった。

テイルスやエミーと遊ぶのも勿論楽しいが、同世代の親友・ナックルズと、久しぶりに遊園地で思いっきりはしゃいでみるのもいい。ついでにシャドウも。

(あいつら、最近は結構うまくいってるみたいだしな。ここらで遊園地デートってのもアリなんじゃないか)

ソニックは、以前行った小さな遊園地で、「いつか三人でもう一回遊びに来よう」と約束していたのを思い出した。

思えば、あの時から随分色々な事があった。

レジーナにナックルズが攫われ、奪い返しに行き。

シャドウがナックルズの周辺をやたらうろつくようになり。

反究極生命体・ユニを倒すためにあちこち走り回り。

グロリア火山でシャドウを助けに行き。

シャドウが行方不明になり、エンジェルアイランドで見つかり。

そして今もシャドウは、毎日きっとナックルズに会いに島へ通っている。

(不器用同士、ゆっくりでいい。ゆっくり仲良くなってきゃいいんだよ)

ソニックは、二人が静かにマスターエメラルドの前で並んで座っている様子を想像して、ふっと笑い、エンジェルアイランドに向け、走り出した。

エンジェルアイランドに到着し、上機嫌でマスターエメラルドの祭壇めがけて駆けていくと、赤い色と黒い色が上下に重なっているのがすぐに見えた。

「おー、いたいた!ちょうどシャドウも来てるのか⋯⋯⋯⋯ん?」

上下に重なる赤と黒。赤の上に黒が重なって見える。

目を凝らしながら、走って近寄ってみて、目を疑った。

シャドウがナックルズの上に馬乗りになってナックルズの腕にむしゃぶりついていた。

「はぐ。むぐ⋯⋯すぅぅ⋯⋯ふしゅ!」

手首の裏。掌。二の腕。夢中で右腕のあちこちを甘噛みし、吸い付き、匂いをかいでいる。

ナックルズは顔を真っ赤にして目をつぶり耐えていた。ふとナックルズが気配に気付いてソニックを見て、慌てて身体を起こそうとした。

しかしシャドウはソニックに気付いていないのか、気付いてもどうでもいいと思っているのか、腰に力をいれてナックルズの動きを封じ、さらに力を強めて腕にかじりついた。

「あう⋯⋯」

ナックルズは抵抗するのをあきらめ、もう一度両目をぎゅっとつぶった。

ソニックは慌ててシャドウを突き飛ばした。

「ソニック。邪魔をするな。今日はきちんとナックルズに許可をとって噛みついてるんだ」

シャドウが口元をぬぐいながら立ち上がり、ソニックを軽くにらんだ。ソニックも負けずに言い返す。

「俺が来た時は遠慮しろよ!」

「僕が先にナックルズのところへ来たんだ。君が遠慮するべきだ」

「お前永久に噛みつき続けるつもりだろ!」

相変わらず一方通行なシャドウの言い分にソニックはたまらず食いついた。

「くっ⋯⋯ハァ⋯ハァ、⋯⋯やめろ、二人とも。ソニック。な、何の用だ」

息を上げながら、ナックルズがようやく立ち上がった。

ナックルズの顔はまだ赤面したままだったが、表情はいつも通りだった。

というより、「いつも通りという事にしておいてくれ」といった表情をソニックに向けた。

(ったく⋯⋯わかったよ)

ソニックはため息をつきながら本題に入った。

「知り合いが遊園地の無料チケットくれたんだよ。三人分。ずっと前に、今度また三人で遊園地で遊ぼうぜって、約束してただろ?善は急げってな。さっそく今から行こうぜ」

ナックルズは、頭をかきながらシャドウを見た。

「そういや、そういう約束してたな。俺は別に構わねぇけど⋯⋯」

シャドウは間を開けずに頷いた。

「君が行きたいならどこへでも」

「決まりだな。郊外にあるでっかい遊園地だ。思いっきり遊べるぞ!」


ソニックは、おおはしゃぎで、どうせなら遊園地まで走って向かおうと提案したが、ナックルズとシャドウにはにべもなく断られた。

三人は最寄りの駅へ向かい、遊園地直通の電車に乗った。

ナックルズは車窓から流れる風景を満足げに眺めながら、ゆったりとした動作で空いている座席に座った。

「遊園地は逃げも隠れもしねぇよ。旅だの冒険だのってのは、目的地に着くまでの時間もじっくり楽しむもんだぜ」

「同感だ。ソニック、君も少しは、冒険者ナックルズから、旅の情緒というものを学ばせてもらうといい」

シャドウがナックルズに同意しながら、ソニックをちくりと刺す。

そして、流れるようにしなやかな動作で、ナックルズの右手の指を軽やかに口に入れた。

「煙草吸うみたいなかっこいい動作で指をしゃぶるな。ごまかされるかっての」

ソニックは二人の間に無理やり割り込んで座り、シャドウの指しゃぶりを強制終了させた。

シャドウがにらんできたが、すかさずナックルズに話しかけて、何もなかった事にした。

遊園地の最寄り駅に着くと、遊園地に向かう家族客やカップルであふれ、既に賑やかな雰囲気に包まれていた。

「結構混んでるな。チケットはもう持ってるし、並んでりゃすぐ入れるだろ」

ソニックは先陣を切って入場の列に並び、笑顔で二人を振り返った。

ゆっくりソニックの後を追い、列に並ぶナックルズ。

ナックルズの右の指をしゃぶりながら、真顔で列の並びを確認するシャドウ。指を口に含んだまま、ソニックに「列にはまっすぐ並べ」と片手で合図を送る。

ソニックは、「だから指をしゃぶるな」と、片手で合図を送り返した。

しばらく待った後、入場の列から解き放たれ、ようやく三人は遊園地の中に入った。

入り口すぐ、左手の坂道の先に空中ブランコが見える。ソニックはナックルズの腕を掴み、そのまま駆け出した。

「まずはやっぱり空中ブランコだ!遊園地といったらこれがなっくちゃな」

「へっ、どれだけ回転が速くなっても、俺は耐えきってみせるぜ」

ナックルズも思わず笑顔になり、ソニックと一緒に空中ブランコの待機列に飛び込んだ。

遅れてシャドウがやってくると同時に、空中ブランコのゲートが開き、スタッフからブランコ乗り場のサークル内に誘導された。

ソニックは一番外側にある、たっぷりスリルが楽しめそうなブランコを選び、飛び乗った。

後ろを振り替えると、シャドウがナックルズの肩を優しく抱き、内側にある二人乗りの座席へエスコートしていた。ナックルズが戸惑いながら、ぎこちない動作で座席の手前側に座ろうとしている。

ソニックは、思わず目をそらし、正面に向き直った。

(そうか⋯⋯あいつら⋯⋯“そういう二人”なんだった)

なんとなくそわそわしながらブランコが動き出すのを待っていたが、陽気な音楽と同時にブランコの回転が始まる頃には、ソニックは有頂天になっていた。

「ヒュー!イエーイ!気持ちいいーっ!」

ソニックは、大はしゃぎで両手を振り回しながら、回転しては流れていく空と街を楽しんだ。

自分で走って見える風景も心地がいいが、楽しむためだけに作られた乗り物が見せてくれる独自の風景だって、やっぱりソニックにとっては新鮮で気持ちがいい。

(ナックルズはこの景色をどうやって楽しんでんのかな。シャドウもちょっとはナックルズの隣りで、幸せな顔できてんのかな)

ソニックは、自分の感じる幸せを、後ろの二人とも共有したくて、両手を上げたまま笑顔で後ろを振り向いた。

ナックルズの顔が視界に入る。

ナックルズは赤面したまま身体を硬直させてうつむき、 視線は自身の膝元を見たまま固定されていた。

隣りでシャドウがナックルズの右腕を両手で持ち上げ、うっとりとした表情でその右腕にかぶりついていた。

ソニックは歯をむき出しにして威嚇しながら、腕を左右に振って、シャドウに噛みつきをやめるように合図した。

シャドウはソニックの合図に気付いたが、ソニックを半目でにらみながら、腕を持ち替え、ナックルズの右腕の拳をまるごと口の中に放り込んだ。

シャドウの頬がナッツを頬張るリスのように大きく膨らんでいる。ソニックは戦意を喪失し、諦めて正面を向いた。

行き場をなくしたソニックの両手は幽霊のように小さく折りたたまれ、ぶらぶらと左右にむなしく揺れていた。

そのうち、ブランコが緩やかに回転を停止し、乗客達が降り始めると、ソニックはのしのしと歩いてシャドウの前に立った。ソニックが怒り顔で口を開く前にシャドウが言った。

「最高の景色だったな」

「見てないだろ!お前のせいで俺が見たのは最悪の景色だよ!」

「ソ、ソニック。次はジェットコースター乗ろうぜ。お前の全速力よりも速度出てたりしてな」

ソニックは続けてシャドウをなじろうとしたが、ナックルズのとりなしで仕方なく怒りを収める事にした。

ジェットコースター乗り場にやってきた。

待機列はそれほど多くなく、ちょうどゲートが開いたタイミングで、ソニック達もゲートの中に招き入れられた。スタッフがコースターに次々と乗客を誘導していく。

ソニックはナックルズを自分の隣りに引っ張り入れ、コースター最前列の二人席に並んで座った。シャドウが一列後ろの席に乗り込み、身を乗り出して、ナックルズの右腕を引っ張ろうとした。

「安全のためにシートベルトをつけておかけください!」

ソニックは苛立ちながら叫び、シャドウの身体を後方に突き飛ばした。

コースターが動き出す前に、ナックルズの顔を見ると、なんでもない風に安全バーを掴んで、前を向いて早口でソニックに笑いかけた。

「お前、飛び降りてレールを走れよ。ジェットコースターで後ろから追いかけてやるぜ」

(俺が飛び降りた瞬間にお前の右腕は横に滑り込んでくるシャドウの口の中だけどな!)

ソニックは言いたい言葉をすんでのところで飲み込みながら、歯をむき出しにしてかろうじて煽り返した。

なんだかんだで、ナックルズとソニックがはしゃぎながらジェットコースターを降りると、出口のすぐ近くにメリーゴーランドがあった。

色とりどりの馬や馬車が愛らしい音楽に合わせてゆっくりと回っている。

(子供じゃあるまいし、流石に⋯⋯)

ソニックは他の乗り物を求めて当たりを見渡した。

遠くに、垂直落下型のアトラクションがある。その隣には、水上を駆け回るボートタイプのアトラクションで、ボートごと滝の中に突っ込むの人気の乗り物。正面手前にはお化け屋敷 とジェットコースターが合体したタイプのアトラクション。

ソニックは大真面目な顔で考えこんだ。

「一番奥のやつが楽しそうだけど、手前のやつから遊びたいよな。水のボートは、まんいち故障しちまったら俺は泳げないし⋯⋯ でも、遊園地に出てくる偽物のお化けなんて男三人で眺めてんのもなぁ⋯⋯。なぁ、二人とも、次のアトラクションだけど⋯⋯」

振り向いて意見をもらおうとしたが、二人とも見当たらない。キョロキョロと当たりを見回すと、視界の端に赤と黒が上下に重なっているのが見えた。

「んん?!」

ソニックは目を凝らしながら、重なり合う赤と黒に近づいた。そこは⋯⋯くるくる回るメリーゴーランドの馬の上。

ナックルズが馬の背に乗っている。仰向けに寝転がった姿勢で。

その上に、シャドウが馬乗りになって、うっとりしながら腕にがぶがぶとかぶりついていた。

ソニックは自分の目を疑った。

メリーゴーランドが回転して、ナックルズの姿が柱の陰に消える。ソニックは手すりから身を乗り出し、柱の先を凝視した。

もう一度、ナックルズが馬と共に姿を現す。

そしてその上にはうっとりして腕をフガフガとしゃぶるシャドウ。

「ひ⋯⋯う⋯⋯」

ナックルズは真っ赤な顔をして涙目で身をよじっている。シャドウは腰を使って器用にナックルズの動きを封じる。

周りの乗客の目が痛いほどにナックルズに突き刺さる。

「ひん⋯⋯」

シャドウの下敷きになって動けないナックルズは、両目をつぶってただただ羞恥に耐えていた。


「お前ら、いい加減にしろー!」

メリーゴーランドからおりてソニックは二人を怒鳴りつけた。

「シャドウ!人前で際限なく噛みついたら目立ちまくるに決まってるだろ!常識ってもんがないのかよ!ナックルズ!お前もこういう時くらいちゃんと断れ!」

「何が常識だ。ナックルズは今朝一番、今日は右腕だけならいくらでも噛みついていいと僕に許可してくれた。勝手にじろじろ見てくる連中が不躾すぎるんだ」

「お⋯⋯俺は別に⋯⋯た、他人の事なんか、気にしてねぇよ⋯⋯ 」

ソニックは気付いた。極端過ぎる合理主義者の究極生命体と、古代の島の孤独な守護者。

常識の外で生きてきた二人に常識でものを語るのは、あまりに無益すぎる。

ソニックは目を閉じ、呼吸を整えた。常識が通じないなら、視点を変えて話すしかない。

「⋯⋯シャドウ。右腕に噛みつくのはまぁいい。なんでナックルズに馬乗りになってんだ」

「身をよじって逃げようとするからだ。ナックルズは噛みついていいと言ってくれた。だから僕は、彼が逃げないように⋯⋯」

そこまで言って、シャドウが動きを止めた。

宙を見て、思考した後、一気に顔が青白くなった。身体を震えさせて、半歩後ろに下がる。

とっさにソニックはシャドウの両肩をおさえてなだめた。

「ああ⋯⋯いや、悪かった。シャドウ、お前は何も間違ってない。大丈夫だ、ナックルズが許可したんだよな。お前は何も悪い事なんてしていない」

ナックルズが言った。

「ソニック、すまん。ポップコーンを買って島に帰ろうぜ。俺は今日、シャドウに約束したんだ。だから⋯⋯今日だけなら、右腕は、いくらでも⋯⋯人目のないところで」

ナックルズは顔を赤くしたまま、目を泳がせながら言った。やはり人目はどうしても気になるらしい。

シャドウが目を輝かせた。そして、フン、フン、と鼻息で返事をした。

ソニックがため息をついていった。

「わかったよ⋯⋯。キャラメルとホワイトチェダーチーズな。それからコーラのLサイズも」

ナックルズとシャドウがそろって嬉しそうにうなずいた。ソニックはつい頬が緩み、苦笑を漏らした。

(息が合うくせに、トラブルばっかり起こしやがって、マジでこいつら⋯⋯)

ポップコーンの列に並んでいる時も、シャドウはナックルズの右手の甲をかぷかぷと甘噛みし続けていた。

ポップコーンの香りをソニックがうっとりして吸うと、シャドウは文句を言った。

「不快な匂いだ。ナックルズの匂いが薄れる」

ソニックは店員からコーラを受け取り、ストローからコーラをジュウ、と吸った。シャドウがすかさずナックルズの指をジュウ、と吸った。

ソニックは反射でシャドウの頭をはたいて、再びため息をついた。


それから再び電車に乗り、三人は昼過ぎにエンジェルアイランドに戻ってきた。

ソニックはもう帰るべきか迷ったが、なんとなく帰らなかった。

ナックルズの事が心配なような、このままシャドウにナックルズの全てをしゃぶり尽くされるのが怖いような。

マスターエメラルドの祭壇を降りてすぐの草の上で、ナックルズとシャドウは隣り合って座った。ソニックは少し離れた木の下で、二種類のポップコーンを抱えて座り込んだ。

(ナックルズは俺に「帰れ」なんて言ってない。シャドウだけが居座ってもよくて、俺だけが帰らなきゃいけないなんて事はないだろ)

ソニックはやけになってふたつの味のポップコーンを交互にむしゃついた。

味はおいしい。テンションは上がらない。

理由がわかって、自己嫌悪でがっくりと肩を落とした。

(俺もシャドウとどっこいどっこいだな)

結局、ソニックもナックルズの善意に乗っかって、ナックルズから離れようとしない。勿論ナックルズの事が心配だからこの場に居座りたいだけだった。

しかし、善意でナックルズに執着しているのは、シャドウも同じに違いなかった。


ナックルズは黙って右腕を差し出した。

シャドウが丁寧な動作で右腕を受け取ると、さっそくかぷりと手首に噛みついた。

そこからシャドウは腕のあちこちに次々と噛みついていった。

段々と噛みつくペースが上がっていく。思わずナックルズが腰を引いた。シャドウはすかさず肩を押し込んで、ナックルズを押し倒した。

ナックルズの右腕を高く持ち上げて、内側の肉を甘噛みし、それから、つつつ、と舌で筋肉をなぞり、脇に噛みついて息を吸った。

「ひぃん!」

ナックルズがエビぞりになって身をよじらせた。

「やだ!脇はやめろ、怖い、いやだ!」

シャドウは逆上して、無理やりナックルズの胸元を抑えつけた。

「脇だって腕の一部だ!」

強く掴んだ右腕をひっぱって伸ばし、顔をグイグイとナックルズの脇に押し込む。

脇を舐めて、噛みつき、匂いを吸った。

「ひっ⋯⋯ひっ⋯⋯」

ナックルズが身体をこわばらせ、震えながらしゃくりあげた。

ソニックがようやく異常に気付いてすっ飛んで来て、シャドウの頭を蹴っ飛ばした。

シャドウは反射でソニックの喉に向かって一直線に、槍のように鋭い蹴りを入れた。

すんででかわしたソニックは、ナックルズを抱きかかえ、後方に飛んだ。

「やり過ぎだ!ナックルズが怖がってる!」

「いくらでも噛んでいいって言ったんだ!」

その時。

ナックルズの胸元が赤く光り、何かが弾けた。ソニックとシャドウは衝撃で軽く弾き飛ばされる。

「ナックルズ!」

膝をつき、すぐにソニックはナックルズに駆け寄ろうとした。

それよりも早く、シャドウがナックルズを抱き起こし、顔をのぞきこみ、呼吸と意識の有無を確認すると、草むらにそっと寝かせた。

シャドウは完全に冷静になっていた。

ナックルズは目を閉じて動かない。胸元はゆっくり上下している。怪我はないらしい。

「なんだ⋯⋯今の光」

ソニックがつぶやき、周囲を見渡した。

島の中はいつも通りの静けさで、敵の気配もない。シャドウが何も言わずにナックルズを見つめている。

こころなしか、顔が青白い。ソニックは深呼吸をして、シャドウの肩を叩いた。

「お前のせいじゃない。逃げる必要もない。まずは、ナックルズを休ませよう」

シャドウは答えない。代わりに、そっとナックルズを抱き上げ、小屋に向かって歩き出した。

ぬるい風がゆるりとソニックの肩を吹き抜けていく。

平穏な島の景色。

異常はない。

何もなさすぎる程に。

ソニックは周囲を慎重に見渡し、深く息を吐き、ゆっくりと小屋へ歩いて行った。