世界の果てと果ての狭間の亜空間。
雌伏の谷の入り口付近。
スーパーソニックとスーパーシャドウが、暁の船団の衛兵たちを相手に戦っていた。
衛兵達は銃のような形状の武器からエネルギー弾をソニック達に向かって発射した。
「このエネルギー弾がこいつらの標準装備ってわけか!」
ソニックは難なくエネルギー弾を避けて、衛兵たちをスピンアタックで吹っ飛ばした。
「ナックルズー!迎えに来たぞー!いたら返事しろぉ!」
ソニックは叫びながら辺りを飛び回った。
エネルギー弾に加えてビーム兵器がソニックを襲う。
ソニックはいったん、自分たちが突入してきた時空の通り道の入り口を防衛している、シャドウの元へ飛んで戻った。
シャドウが攻撃の手を休めず、冷静に提案する。
「君はこの時空の入り口を見張っていろ。僕が基地内部に侵入してナックルズを探す」
時を少し遡って、テイルスがトルネード号で到着したばかりのエンジェルアイランド。
悔しそうに唇を噛むソニックと、殺気を放ったまま立ち尽くすシャドウを交互に見て、テイルスが言った。
「⋯⋯解析が遅くなっちゃって、ごめん。たとえ僕が早めに来ても、事態は変わらなかったかもしれないけど⋯⋯あと、これ」
テイルスが懐から紫色のカオスエメラルドを差し出した。
ソニックが黙って受け取る。
「島に向かう途中で、偶然見つけたんだ。念のため、何か役立つかもと思って拾ってきたんだけど。⋯⋯それでさ、ナックルズはどうしたの?一体何があったの?」
ソニックは手短に今起きた事を伝えた。
ナックルズの胸元に生まれた赤い光の渦から、ジークという男が飛び出してきた事。
その男はエメラルドの異相体、クリムゾンプリズムの使い手で、ソニックとシャドウを一撃で動けなくするほどの使い手であった事。
“世界の創世”のためには、ナックルズが器として必要だという事。
そして、ナックルズが二人を庇って、ジークに従い、時空の向こう側に行ってしまった事。
テイルスは付近を漂っている残光を見つめて言った。
「シャドウ。カオスコントロールで、この赤いエネルギーを元に、時空に穴を開けて、ジークっていうやつを追いかけられないかな?エメラルドのエネルギーと、この異相体のエネルギーは、アルゴリズムが違うだけで、仕組みは似てるはずなんだ。コツさえつかめば、シャドウもきっと⋯⋯」
「やってみる」
シャドウはすかさず周囲にただよう残光に手を当てた。
「これは⋯⋯」
シャドウが顔をしかめる。
「おそらく、道は閉じてはいない。しかし、手が届かない。まるで素手で水をつかもうとしているかのような感覚だ」
「できないってのかよ。口は達者な究極様のくせに⋯⋯」
「だまれ。やりようはある。カオスエメラルドがあるならな」
地面に落ちていた黄色いカオスエメラルドを拾うと、シャドウが構えた。
身体が黄金色に光る。
スーパー化したシャドウが、両手で赤いエネルギーに手をやり、何かをこじ開けるような仕草で、時空に大きな穴を開けた。
テイルスが言った。
「時空に開けた通り道が、まだ閉じていなかったんだ。これを通れば、ジークってやつの向かった先にたどり着けるはずだよ」
ソニックが笑って言った。
「敵さんもまぬけなもんだな。まさかこっちに似たような能力持ちがいたとは思いもしてなかったってわけだ」
「まぬけなのは僕と君だ。やつが軽く放っただけの一撃で、今まで二人そろって気絶していたんだからな。油断するのも無理はない。僕たちがあまりに弱すぎた」
シャドウがソニックをにらみつけて言う。ソニックは余裕のある笑みでシャドウを見返して、紫色のカオスエメラルドを片手で握りこんだ。
「自虐もほどほどにしとこうぜ。やりようがあるなら、あとはやるだけなんだからな」
ソニックもすかさずスーパー化した。
テイルスが、元気を取り戻したらしい二人の様子にほっとしながら言った。
「相手が作った時空の通り道を無理こじ開けただけだから、時間が経つと歪みが元に戻って、通り道が消えてしまうかもしれない。そうなったら二度と戻って来れないかも⋯⋯。気を付けて。絶対無事で、ナックルズを連れて帰ってきてね」
──雌伏の谷。
ソニックが敵を引きつけながら、シャドウに向かって叫ぶ。
「カオスコントロールでナックルズのところまでひとっ飛びできないのかよ!」
「簡単に言うな。ここは恐らく亜空間だ。時空と時空の狭間。僕らがいる世界の時空とは少し──」
シャドウが言いかけたところで、地面から円形の魔法陣が現れ、真っ赤な光が二人に襲
い掛かった。
「なんだ?!」
「クリムゾンプリズムとやらの攻撃か。どこにいる?!」
ジークの姿は見えない。
ソニックが魔法陣に向かって攻撃を放ったが、魔法陣はすぐに復活して、レーザー状の鋭い暁光をいくつも放ち、再び二人に襲い掛かる。
「遠隔攻撃かよ。器用な真似しやがって」
「逆に言えば、やつは僕たちとの直接対決を恐れているともいえる」
シャドウがすかさず構え直したが、眉間にしわを寄せて、後ろに引いた。
「カオスコントロールが使えない」
シャドウがもう一度カオスコントロールを使おうとする。
時空がギイギイと奇妙な音をたてて軋んだ。赤い光が歪んだ時空からじわじわと漏れ出る。
ソニックが周囲の敵を薙ぎ払いながら叫んだ。
「腕が落ちたんじゃないのか。平和ボケしやがって」
「ぬかせ。ここは敵の本拠地。奴の操るクリムゾンプリズム──異相のエメラルド本体の磁場圏内だとしたら、場を支配する能力は現状あちらの方が優位という事か」
シャドウが襲い来る赤い光をカオススピアで相殺した。
ソニックが振り向いてニヤリと笑う。
「だったら、スピードでかき回すしかないな」
「僕がやる」
シャドウが一歩前に出た。
敵基地の入り口に向かって歩みだし、振り向かずに進む。ソニックも周囲の敵に目を向けたまま、シャドウを送り出した。
「君は入り口を守れ。僕が必ず⋯⋯」
「ナックルズを連れて帰ってくる。約束だぞ」
「当然だ」
ジークは胸に埋め込まれたクリムゾンプリズムの欠片に両手を当てて、しばらく遠隔攻撃をおこなっていた。
魔法陣による自動攻撃。しかし、手ごたえはない。
魔法陣越しに気配を探った。敵は二人。
「俺が転がした青と黒のハリネズミか。しかし、生命エネルギーが桁違いに増幅されている⋯⋯あいつら、異相のプリズムの使い手か」
そのうち一体の気配が魔法陣から離れた。
ジークのいる祭壇の前室にたどり着くまでのルート上には多くの衛兵が配備されているが、感じ取る生命エネルギーの強大さから言って、衛兵たちが戦力になるとは思えなかった。
「時間の問題だな。⋯⋯片方、こちらへやってくる」
ジークは攻撃の手を止め、ナックルズを抱きかかえた。前室の奥にある、祭壇へ向かう大きな扉を開けた。
扉の奥には、閉じられた円形の空間が広がっていた。空間全体が赤い光に包まれている。
石造りの園庭のような空間の中央に、溶鉱炉のように真っ赤な泉がある。
泉の正面には大きな女神像が鎮座していた。
女神イオシス。
滅亡世界で生まれた聖母。
暁と創世の神。
女神の像の中央の腹部には、大きな赤い水晶──クリムゾンプリズムの本体が埋め込まれていた。
「ナックルズ。この泉の中で眠れば、お前の意識は溶け、肉体は女神御光臨のための器と化す」
「とうとう我らの世界の創世が成就する。皆が救われる」
「痛みはない。お前はただ、安らかに⋯⋯」
「世界を救済できるなら、俺の行く末など、あとはどうでも⋯⋯⋯」
ジークはナックルズをそっと地面に寝かせ、女神に向かって祈りを捧げた。
シャドウは敵をなぎ倒しながら、奥へと突き進んだ。
恐れず立ち向かってくる衛兵たちを容赦なくなぎ倒しなら進む。
基地の中は思ったよりも入り組んでいて、構造がわかりづらい。
負傷して膝をつく一人の衛兵を目に止め、シャドウはその眼前に立ちはだかり、冷たい声で尋ねた。
「赤い毛並みのハリモグラはどこだ。ジークという男がここに連れてきたはずだ」
「し⋯⋯知らない」
「隠そうとするなら、容赦はしない」
手を上げたその時、小型の魔法陣が現れ、シャドウに向かって赤い閃光を放った。
振り向きざまカオススピアで相殺し、衛兵の方を振り向くと、衛兵を庇うように小さな魔法陣が複数現れた。
「僕が何をしようとしているのか、わかっているというわけか。ならば、こうだ」
シャドウは魔法陣に目もくれず、周囲にいた他の衛兵たちを狙って攻撃を仕掛けた。
すると、魔法陣から放たれた一本の赤い光が、ロープのようにうねりながらひとつの道を指し示した。
光が、シャドウを基地の奥へ導こうとしている。
「味方の兵を庇う良心はあるくせに、ナックルズを攫った事の罪深さは理解できないか。ふてぶてしい奴」
シャドウは吐き捨てると、赤い光の道に沿って素早く滑走した。
大きな扉の前で光が途切れる。
扉を開くと、そこは一面の白い花畑だった。
祭壇の手前にある前室。純白の祈祷所。
ナックルズを攫った男──ジークが、真っ白な花畑の真ん中に立っていた。
ジークが、最後に会った時と同じ、余裕たっぷりの笑みで首を傾けながら言った。
「黒い方が来たか。お仲間の青いのはどうした。プリズムの暁光に焼かれて灰にでもなったか?持ち帰りたいなら、白磁の骨壺でも恵んでやろうか」
「ナックルズはどこだ」
シャドウは挑発に乗らず、低い声で尋ねた。ジークも動じない。
「焦るなよ。だがまぁ遅かったな。もう女神に捧げた。この先の祭壇で永遠の眠りについている」
「そこをどけ」
「断る」
シャドウが殺気だった瞳でジークをにらみつけた。ジークは歪んだ笑みでシャドウを煽る。
ジークが言った。
「お前の名を聞いておこう」
「シャドウ。お前を殺す者の名だ」
シャドウが地面を蹴ると同時に、ジークが両腕を掲げた。ジークの放つ強い暁光が柱状になり、あちこちから延びる。
シャドウは赤い光を避けながら、横に飛び、奥に見える祭壇の扉をめがけて走った。
この花畑にナックルズは見当たらない。
ならば、ジークが守るように立っている場所の背後にある扉の奥にナックルズが捕らわれている可能性が高い。
扉のすぐ近くまで到達した瞬間、扉の前の空間が赤く歪み、そこから暁光の散弾が発射された。シャドウは両腕で防御し、後ろに飛び退いた。
ジークが歪んだ笑みのまま鋭く言った。
「先走ってんじゃねぇよ、すけべ野郎。俺を殺すってのはただの虚勢か?逃げるんじゃねぇよ、己の運命からな」
指摘された焦りを隠しもせずに、シャドウが叫んだ。
「ナックルズを無事に返せば、命だけは助けてやる⋯⋯!」
ジークが無慈悲に笑って返す。
「もう無事じゃねぇよ。身体は俺が食ってやった。残った魂は女神の元でお眠りだ」
「嘘だ!」
「宣言通りに俺を殺してみせろよ!答えはその後だ!」
シャドウは咄嗟にカオスコントロールを使った。すかさずジークが時空をねじまげて阻止する。
時空が歪みあって、ギイギイと奇怪な音がそこらじゅうに響く。
シャドウがジークに向かって飛びかかろうとする。
ジークは両手を大きく回して赤い光の疾風を巻き起こし、宙に浮き、距離を取った。
暁光の柱が四方からシャドウに襲い掛かる。シャドウは柱を避けながら叫んだ。
「なぜナックルズを攫った!」
「必要な犠牲だったからだ!」
ジークが被せ気味に叫び返した。
シャドウがカオススピアを放ち、死角を狙ってジークに飛びかかる。
すんでのところでジークは光の壁を作り、シャドウから逃れ、後方に飛んだ。
戦いながら、二人の問答が続く。
「何のための犠牲だ⋯⋯」
「既に滅んだ我らの世界の創世のためだ。我が女神イオシスが適合者ナックルズを器として世界に顕現し、創世をなす!」
「そんな事のためにナックルズを消費するな!」
「そんな事じゃない。それが全てだ。俺が生まれた罪は創世による救済で相殺する!」
ジークが胸に埋め込まれたプリズムから、大きな赤い球体エネルギーを出した。球体が強い光を放ち、シャドウの身体を貫く。
シャドウは構わずカオスブラストの爆発で強引に押し返した。
ジークを守っていた光の壁が破壊され、ジークの身体が地面に叩きつけられた。
「ぐっ⋯⋯!」
間髪をいれずシャドウがカオススピアを放つ。まばゆく光るエネルギーの槍が、真正面からジークを貫いた。
「があっ!」
ジークが吹っ飛びながら、胸元に手を当てようとする。
シャドウは容赦なく飛び込み、ジークの手を蹴り飛ばした。
ジークの身体がおもちゃのように転がり、白い花畑の上に投げ出された。
ジークがフラフラと立ち上がった。両手をだらりと降ろしたまま、肩で息をしている。
シャドウがゆっくりとジークに近づく。
「自分の罪をナックルズに全てなすりつけて、創世後の世界でのうのうと生きていくつもりか」
「く⋯⋯」
ジークの手がピクリと動く。
同時に、シャドウはジークの首を片手で掴み、そのまま持ち上げた。
「う⋯⋯ぐ⋯⋯」
ジークが身をよじって逃れようとする。
シャドウは腕にいっそう力を込め、低い声で吐き捨てた。
「安い救済だ。他者をふみにじって、救われた気になっている。ただの偽善だ」
「黙れ。痛みを背負ってこその救済だ⋯⋯」
「背負うなら一人で背負え。僕なら、たった一人でも世界と戦い続ける。大切な人を守るために!」
ジークが両手を広げ、四方から赤い光の柱を呼び起こした。
光の柱がシャドウに届くよりも速く、シャドウの攻撃がジークの身体をを貫いた。
ジークは大きく吹っ飛ばされて転がり、白い花畑の中に、うつ伏せに倒れこんだ。
急いで起き上がらなければいけない。
胸に埋め込まれたプリズムに手を伸ばせば、バリアを張り、治癒能力を発動できる。
ジークは、指が痺れていることに気付いた。
それから、背中の痛みに気付いた。
足が動かない。
頭が割れるように痛い。
胸が苦しい。
(疲れた)
涙で視界がぼやけた。 気付けば、起き上がる力はもうなかった。
(終わりだ。やっと眠れる)
シャドウがとどめの一撃を叩きこもうと構える。
ジークは息を吐き、目を閉じて最期の時を待った。
「⋯⋯ナックルズを⋯⋯」
ジークは、最後に思わずつぶやいた。
ジークのつぶやきを聞いて、殺気に満ちていたシャドウの瞳に光が戻った。
シャドウは、素早く祭壇への扉を振り返った。さっきまでバリアのように扉を塞いでいた赤い時空の歪みが消えている。
「ナックルズ⋯⋯!」
夢中で扉の方へ駆けだした。
大きな祭壇の扉を両手で開く。
目の前には真っ赤な泉。
その正面に、不気味な女神の像が立っていた。
憂いの表情で両手を差し出す美しい女神の腹は、縦に大きく裂け、中から赤い光が露出している。
その中央には大きな赤い水晶──
クリムゾンプリズムが埋め込まれていた。
血のように赤く染まった泉の中には何も見当たらない。
緊張した面持ちで左右を見渡した。
すると、右端の壁にもたれかかって、毛布に包まれたナックルズがすやすやと眠っていた。
「ナックルズ⋯⋯!」
駆け寄って呼吸を確認する。
表情は、島の木陰で眠っているかのように穏やかで、いつものナックルズの寝顔だった。
シャドウは毛布に包んだままナックルズを抱き上げて立ち、女神像を見上げた。
「邪神め。お前のせいでナックルズは、極限まで追い詰められた」
シャドウの瞳が再び怒りで濁っていった。
「二度とこんなことの起きないように、徹底的に破壊してやる 」
ナックルズを抱えたまま構え、カオススピアを女神に向かって放った。
その時、ジークが背後から飛び出してきて、シャドウの攻撃を身体で受け止めた。
「なに⋯⋯っ」
「ナックルズは返してやる。だが、その先は⋯⋯欲しがり過ぎってもんだぜ」
ジークが倒れ込みながら、胸のプリズムに両手をかざした。赤い光が放たれ、シャドウはナックルズごと光の渦に飲み込まれた。
「しまった⋯⋯!」
シャドウはナックルズを抱きしめて身をかがめた。
視界がぐるぐる回り、歪んだ時空の外に吐き出された。
シャドウはナックルズを抱きかかえたまま、地面に着地し、素早く辺りを見渡した。
「シャドウ?!⋯⋯ナックルズ!」
ソニックの声が響く。
そこは、シャドウとソニックがこの亜空間で最初に降り立った場所──雌伏の谷の入り口だった。
「ソニック。灰にはなっていないようだな」
「ご心配どうも。暴れすぎて筋肉痛にはなりそうだけどな。よし、ナックルズも奪還できたみたいだし」
ソニックの周囲には倒れた衛兵の山が出来上がっていた。
シャドウは身構える残兵たちをひとにらみして牽制し、時空の通り道の入り口に身を寄せた。
「道が閉じる前に、急いで帰還する」
エンジェルアイランドの祭壇前。
ちょこんと座りこんでいたテイルスがふと頭をもたげると、金色に光る手が時空のすき間からにょきっとはえてきた。
立ち上がって近づくと、そこからスーパーソニックの金色の頭が飛び出してきた。
「狭っ!あぶねぇ、入り口が閉じるギリギリの時間だったかな」
「ソニック!」
テイルスがぱっと表情を明るくして身を乗り出す。
ソニックは思い切り身体を縦に伸ばし、時空の入り口を無理やり広げた。
「よーし、通れ!ナックルズを引っかけて落とすなよ」
「そそっかしい君と一緒にするな。ナックルズを落とすくらいなら、代わりに君を引っ張ってでも突き落とす」
「お前ほど俺の善意を悪意で返すやつは他にいないぜ。思いっきりハグしてやりたいね、ありったけの善意を込めて」
ソニックのいつも通りの軽口が終わらないうちに、シャドウが毛布に包まれたナックルズを抱え、エンジェルアイランドの大地を踏んだ。
「ナックルズ!シャドウ!⋯⋯おかえり、無事でよかった!」
テイルスが飛び上がって喜んだ。
ソニックが振り返ると、時空の歪みはあっという間に縮んで見えなくなり、赤い残光は散り散りになり消滅した。
空は高く晴れ、風が四人の間を吹き抜ける。
静かで穏やかな、いつものエンジェルアイランドがそこにあった。
少し経って、ソニックとシャドウの金色の光が消え、二人は元の姿に戻った。
ナックルズの鼻がひくひくと動き、まぶたがゆっくりと開く。
「⋯⋯⋯う⋯⋯マ、マスターエメラルド⋯⋯」
ナックルズが寝ぼけたような声でつぶやき、ぱっちりと目を開けた。
シャドウが目を見張り、ナックルズの顔を覗き込む。
ソニックが呆れて言った。
「第一声がそれかよ。ったく、たいした怪我はなさそうだな」
ナックルズはキョロキョロと辺りを見渡し、すぐそこにあるシャドウの顔をみた。
シャドウはナックルズを抱えたまま、安堵の息を吐きながら言いかけた。
「⋯⋯君が、」
「お前が無事でよかった」
ナックルズが真顔で被せて言う。
シャドウの表情が一気に険しくなった。
「どの口が⋯⋯!」
シャドウは険しい顔をしたまま、ナックルズから顔をそらした。
ソニックはテイルスの肩を抱き、そっと二人から離れた。
「ソニック?二人は⋯⋯」
「いいんだ。喧嘩をしたなら仲直り。それだけさ」
離れていくソニックとテイルスを黙って見送った後、ナックルズはシャドウから顔をそらして言った。
「⋯⋯⋯あのな。好きなとこ、どこでも噛んでいいぞ」
「断る!」
「噛めよ」
「ナックルズ、僕は⋯⋯」
「頼む。噛んでくれよ⋯⋯」
力なくつぶやくナックルズを見降ろし、シャドウはゆっくりと息を吐いた。
「⋯⋯守りたいと思うのは、僕の勝手だ⋯⋯」
「お互い様だな。俺だってそう思ってる。お前の事も、ソニック、テイルス、エミーの事も」
シャドウはゆっくりとナックルズを腕から降ろした。
ナックルズは毛布を脱ぎ、マスターエメラルドを仰ぎ見たあと、その場にどっかと座り、胡坐をかいた。
それから、シャドウに向かって右腕を差し出した。
シャドウはナックルズの前にかしずくように座り、右手をそっと受け取った。
手袋をはずし、ゆっくりと掌の横に口をあて、かぷりと噛みつく。
「うまいか?」
「⋯⋯いつもの君だ」
エンジェルアイランドに温かい風が吹く。
シャドウは夏草と果実のまじった甘い匂いを感じながら、そっと目を閉じ、もう一度掌に噛みついた。