第35話「コルタリアの花嫁 2」

シャドウはキュイに合図して、ソニックと三人で混み合った賑やかなカフェに行った。

ソニックが周囲の客をキョロキョロと気にしながら、怪訝な顔で尋ねた。

「なんでこんな騒がしい場所で?」

「こういう場所の方が、逆に盗聴の恐れがない」

屋内にある四人掛けのテーブルに座り、人数分のコーヒーを注文した後、シャドウはキュイに状況と要望を説明した。

ナックルズがコルタリア国のコルタ族に籠入りと称して、生贄の花嫁として連行されてしまった事。

鎖国中のコルタリアに入国し、ナックルズを奪還したい事。

キュイは眉一つ動かさずに言った。

「入国の方法ならある。当然、密入国になるが」

コーヒーを一口含んで、キュイは言った。

「だがコルタリアは現在、非常に危険な状態だ。政治的緊張が今までになく高まっている。策なしでただ入国しただけでは、救出に失敗するかもしれない。籠入りと称してナックルズが攫われたのも、政治的な意味合いが強そうだしな」

「どういう意味だ」

ソニックが前のめりになって尋ねた。キュイが続ける。

「コルタリア国の緊張状態は俺もよく確認している。政治的には貴族院と神官が強く結びつき、権力を奮っている国だ。貴族階級にいるコルタ族が、神官と手を組み、一族衰退の遺恨を持つエキドゥナ族の末裔を攫い、生贄の花嫁にした。十分過ぎるくらいの政治的宣伝だ」

シャドウは話を聞きながら、表情を変えずにコーヒーを口にした。
キュイは目線をテーブルに起きながら、さらに続ける。

「コルタリアは国境沿いで民族紛争中。恐らく、コルタ族は花籠の儀式を成功させる事で、自分たちの政治的正統性を宗教的側面から確立させようとしているんだろう」

「⋯⋯つまり、ナックルズの奪還作戦は、当然我々奪還組とコルタ族との対立を生むし、その先には政治的対立と国家間紛争が潜んでいる」

ソニックが苦い顔をしながらも言った。

「し、知るもんか。ナックルズを無事に助けられるなら、他の事なんてどうとでも⋯⋯」

しかし、シャドウがソニックの話を遮って言った。

「君は冷静だな、キュイ。何かいい作戦、あるいは有用な情報でもあるのか?」

キュイがコーヒーカップを置いて、一呼吸してから言った。

「世界政府は、コルタリアの開国派派閥と裏で手を組み、現在、内政干渉の下準備を進めている。それを目的に現在コルタリア国内で暗躍中の、対コルタリア諜報チームに、俺の直下の諜報チームのメンバーを紛れ込ませ、君たちの救出作戦を支援する」

ソニックが息を飲んだ。

「キュイ、お前は大丈夫なのか。もしそんな事したのがバレたら⋯⋯」

「バレないようにやる。政治より倫理。組織の都合より、個人の尊厳だ。それが守れないなら、人は戦う意義すら失う」

キュイが静かに眼を光らせていった。シャドウが尋ねる。

「キュイ、君のチームのメンバーというのは⋯⋯」

「ここに呼ぼう。粗削りの新人だが、うまくやってくれるはずだ」

キュイは答えながら情報端末を操作して、コーヒーのお代わりを注文した。
それを見たソニックは、どうせなのでオムライスとオレンジジュースを一緒に注文した。

シャドウがそれを見て、ひきつった顔で咎める。

「子供か、君は。こんな時に、よくも⋯⋯」

「メニューにチリドッグもコーラもないんだ。店に文句を言いたいくらいだぜ」

キュイが真顔でシャドウのためにプリンを頼んだ。

「構えるな、シャドウ。諜報の基本だ」

飲み物とプリンがすぐに運ばれてきた。

口の端を歪めた笑顔で、完璧な一般人のふりをしながら、シャドウはにこやかにプリンを食べた。

ソニックが、満面の笑顔で大きなオムライスを半分ほど食べたところで、三人の座っているカフェテーブルに、見覚えのある灰色のハリネズミが、背中を丸め、卑屈な笑顔でニヤニヤしながらやって来た。

「お前は⋯⋯ハビシュ?!」

ソニックは持っていたスプーンを落としそうになりながら、勢いよく立ち上がった。

シャドウがつい顔をしかめた。

キュイは表情を変えずに言った。

「説明は省く。ハビシュは現在俺のチームで諜報役としてエージェントとして活動中だ。未熟だが役には立つ。俺が直接動くより、ハビシュにやらせた方が恐らく上手くいく」

シャドウがしかめっ面のまま尋ねた。

「ハビシュがエージェントとして活動を開始した事は把握しているが、君のチームに入っていたのか。キュイ、こいつが君より役に立つというのは、どういう事だ」

「対コルタリア諜報チームの責任者は俺の同僚だ。やつは俺に対しては油断がないが、ハビシュに対しては過剰に親身で同情的だ。恐らく油断するし、まんいち何かあっても、やつなら必ずハビシュを庇う」

ソニックはつい感心してため息をついた。

シャドウはニヤリと笑って言った。

「倫理を語るその口で、同僚を利用する戦略を述べるとは。なかなか容赦がないな」

「同僚ゆえにだ。俺に向かってあからさまな隙を見せたあいつが悪い」

キュイは少し笑って、ハビシュに現在の状況と、今回の任務を説明した。

ハビシュは真顔で両目をぐるぐるとさせていたが、説明を聞き終えると、再びニヤニヤしながら情報端末をせわしなく操作しだした。

「ナックルズが大変だなんて。じゃあ僕が助けてあげなくちゃね。密入国くらいなら簡単だよ。問題は入国した先の情報入手と、そこからのサポートだよね」

ハビシュは素早く情報端末を操作し、入国ルートの候補を割り出し、計画書を秘匿されたサーバーに共有し、簡単な流れを口頭で説明した。

「⋯⋯計画は以上。後日また詳細を追加。リーダー、こんなものでいいかなぁ」

「上々だ。シャドウ、ソニック、これでどうだ?」

「ふむ」

「へぇ、ハビシュ、お前、そんなキュイみたいな事もできるやつだったんだな」

シャドウは眉をひそめたままだが、大人しくうなずいた。
ソニックも驚き顔で感心する。

ハビシュが、三人の反応を見て、身体をくねらせ、嬉しそうにニヤニヤして言った。

「僕が救出作戦をサポートするんだから、ナックルズが助かったら僕のお陰だよね。じゃあ、僕がナックルズにおねだりしたっていいよね。⋯⋯身体を触らせてもらおうか。ちょっと抱きしめるくらい、いいよね。腕枕してあげて、一緒にお昼寝したいなぁ。あとそれから⋯⋯」

シャドウの表情が豹変して、瞬時にハビシュを殺そうと手刀を繰り出した。

ソニックが横からスプーンをシャドウの眼前に突き出して、すんでのところでシャドウを止めた。

キュイの表情に緊張が走る。

ソニックが余裕の口元で、しかし、真顔で言った。

「ハビシュ。お前に協力を要請したのは俺やシャドウやキュイであって、ナックルズじゃない。ナックルズに見返りを要求するのは間違ってる」

そして、オムライスを一口食べた後、スプーンをもう一度突き出して言った。

「どうしても見返りが欲しいなら、俺かシャドウがハグしてやるよ。あるいは、キュイか」

キュイは思わずソニックを見た。

シャドウの全身から真っ黒な殺気がだだもれる。

ハビシュはソニックを見て、シャドウを見て、キュイを見た。そして、大きく目玉をひん剥いて、シャドウの方に向き直った。

ソニックが大げさに肩をすくめて言った。

「ご指名だぜ、シャドウ」

「殺す」

「握手くらいしてやれよ。実際、役に立ってるんだしな」

シャドウは険しい表情のまま、短く息を吐き、片手を差し出した。

ハビシュは素早くシャドウの手を掴み、がしがし握りしめて上下に振った。

そして、ニィッと笑うと、すぐに手離し、早口で言った。

「僕はシャドウと握手した。握手したんだから、僕らはもう友達だねぇ。一緒にナックルズを助けに行くんだもんね。僕が必ずサポートしてあげるね。コルタリアはもうすぐ戦場になるよ⋯⋯でも僕はもうすぐ、ナックルズのフルーツジュースを飲める。だって僕がシャドウを手伝ってあげるんだからねぇ。ンヒヒヒッ」

シャドウは軽くキュイをにらんだ。

キュイは気付かないふりをしてハビシュに命令した。

「いいかハビシュ、教えた通りに動け。そして必ず、生きて帰ってこい」

ハビシュはニヤニヤしながら嬉しそうに言った。

「了解、リーダー。楽しみに待っててね」


コルタリア国にて。

ナックルズは、薄いベールのついた花嫁のための花冠を被らされ、花籠の中に座り込んでいた。

神殿内部の開けた広間。

高い天井からは日が差し込み、明るい空間で、たくさんの白百合が咲く中央の台座に、ナックルズの入った花籠が安置され、周囲を人々が囲い、好き好きに覗き込んでいた。

人々は豪奢な装飾品をまとった身綺麗な格好で、ナックルズに向かって何を言うでもなく、静かに覗き込んでは、ひそひそと声をひそめて話し合い、静かに去って行く。

興味深そうに見つめてくる者。

値踏みするように舐め回す者。

馬鹿にしたような顔で見下ろしてくる者。

背後からクスクスと笑い声が聞こえて、ナックルズは、かぁっと顔が熱くなった。

夕方になり、ナックルズは、花籠ごと神殿の回廊の奥側に向かって運ばれていった。

部屋に入れられる前の通路で、籠の隙間から、左右の通路から警備の兵士たちがせわしなく出入りしているのが見えた。

ナックルズは兵士たちの出で立ちを見て、大きな違和感を覚えた。

兵士達は物々しい出で立ちで、大きな武器や頑丈そうなジャケット、フルフェイスのヘルメットを装備している。

市中の兵士は通常もっと儀式的な装飾のついた武器や防具を装備しているか、日常のトラブルに向けた動きやすい軽装をしている事が多い。

(なんか、今すぐにでもここが戦場になりますって雰囲気だな)

ナックルズは、思わず拳を握りしめた。

ナックルズが白百合の花を持って白装束の男たちに連れられて行く時、ベールのついた花冠を被らされたが、グローブをはずせとは言われなかった。

逃げ出したり暴れたりするつもりはないが、グローブをつけているという安心感が、今のナックルズの唯一の心の拠り所でもあった。

しかし、視界の隅に花冠のベールがちらりと入った途端、拳を握る力は一気に萎えた。

(⋯⋯周りの兵士がどんな装備かだなんて、今の俺にはもう関係ないか)

ため息をついて、両手を重ねて、胸の前で揉みこんだ。

花籠はゆっくりと進み、神殿の中の、閉じられた一室に入れられた。

部屋の中に着くと、花籠は去っていき、部屋の中にはナックルズだけが残されようとしていた。

ナックルズは、花籠の担ぎ手と共に部屋まで同伴していた神官を慌てて呼びとめた。

「お、おい。俺はこれからどうなるんだ?この部屋で、俺は一体、何をすりゃあいいんだ」

神官は、首を少し傾け、考えた仕草をした後、鼻で笑うように言った。

「籠入りの花嫁に言の葉は不要。ただ黙し、ただ祈り、ただ褥にて神入りの時を待つがよい」

ナックルズは、目を見張って、その場に立ち尽くした。

担ぎ手と神官が去り、扉が閉められ、部屋にはナックルズだけがぽつんと取り残された。

神官の言葉の全てはわからなかった。しかし、自分がとれる選択肢がひとつしかないという事はわかる。

(待つ⋯⋯待つだけ⋯⋯ここで、エキドゥナ族がやった事の責任を取る瞬間を)

恐怖心がぞわぞわと腹の底からもたげてきた。

今から、何が起きるのか。何をされるのか。

拷問か。死刑か。あるいは、全く別の苦痛を伴う何かなのか。

唇を噛みながら、口の端からゆっくりと息を吐き、それからようやく部屋の中を見渡した。

中央に天蓋付きの白い装飾の大きなベッド。周囲にはまたたくさんの白百合が飾り付けられ、それ以外は、神器のような厳かな白い調度品がベッドの周囲に並べられていた。

少し経って、夕餉に、品のいい食器に並べられた美しい料理が運ばれて来たが、あまり食欲はわかなかった。

添え物のフルーツを一口だけかじると、皿に戻し、部屋を見渡した。

白百合に囲まれた大きなベッドはどうにも落ち着かない。

仕方なく、部屋の隅の床に膝を抱えてうずくまった。

(これから一体、俺はどうなるんだろう)

知らない国。知らない文化。知らない人々。

ナックルズは今、一族の責を負い、籠入りせよとだけ告げられ、たった一人でこの閉じられた部屋にいる。

エンジェルアイランドに静かに鎮座する美しいマスターエメラルドを思い出し、ナックルズは鼻をすすった。

(マスターエメラルドを、自分の力で、ずっと守っていたかった)

島の風と祭壇からの景色を思い出すと、涙が止まらなくなって、両手で乱暴に顔をごしごしと拭った。

──その時。

入り口の扉が勢いよく開くと同時に、聞き覚えのある、高慢で高飛車な声が聞こえてきた。

「こんな物々しい雰囲気の中で契りを迎えるとは、不幸な女もいたもんだな。おい花嫁、女神の御慈悲だ。こっちへ来い。祈祷の喜びを与えてやる」

歪んだ笑みを浮かべた、深紅のハリネズミが両手を掲げて部屋の中に入ってきた。

──暁の船団、師団長ジーク。

ナックルズは思わず涙をひっこめて、ぱちくりと目をしばたいた。

ジークは中央のベッドを見やった後、左右を見渡し、部屋の隅にうずくまるナックルズを見つけ、二、三歩近付いたが、顔を引きつらせ、後ろによろめいた。

「なっ⋯⋯な、お前⋯⋯」

二人が目を合わせ、同時に叫んだ。

「なんでお前がここに?!」

ハッとした顔でジークがもう一度部屋を見渡し、他に誰もいない事を確かめ、ナックルズの頭の上の花冠を認めて、声を絞り出した。

「エキドゥナ族⋯⋯そうだ、お前は確か、エキドゥナ族の最後の生き残り。先ほど報告を受けたエキドゥナの花嫁とは、もしや、お前の事だったのか?!」

ナックルズは困惑しながら答えた。

「⋯⋯まぁ、そうだけどよ。それよりジーク、お前、こっちの世界に来てたのか。俺はずっと心配してたんだぞ。どうせ来たなら、俺の島まで挨拶に来るくらいしろよ」

「ああっ?!」

ジークがうろたえながらも言い返した。

「俺の事なんぞどうでもいい。それよりお前⋯⋯」

「よくねぇよ!ジーク、俺が今までどれだけ⋯⋯」

「うるっせぇな!ぶっ殺すぞ!俺の話を聞け!」

相変わらず口の悪いジークが、何かのスイッチが入ったように、唐突に喧嘩腰になった。

とにかく自分の意見だけを押し通したいらしい。

「おうこら、上等だ!来いよ、殴り合いなら負けねぇぞ⋯⋯」

ナックルズは売り言葉に買い言葉で、思わずジークを殴り飛ばしそうになったが、ジークの首元を見て、言葉を飲み込んだ。

ジークの首には、太めの大きな首輪がつけられていた。

首輪は真っ黒な革製の質感で、全体にぐるりと一周、不気味な呪文が赤字で書き込まれ、正面の真ん中からは短い鎖がだらりと垂れている。

ナックルズは真顔になり、低い声で尋ねた。

「おい⋯⋯なんだ、その首輪」

「⋯⋯⋯⋯」

ジークの顔が、途端に死人のように真っ白になった。

目をそらし、奥歯に物の挟まったような顔をし、ようやくつぶやいた。

「おしゃれ」

「嘘つけ!お前確か師団長っつってたな!隊長格の軍人がお洒落目的でこんなペットみたいな鎖付きの首輪なんかつけるか!」

ナックルズは怒りでとっさにジークの首輪の鎖を掴んで引っ張った。

すると、ジークが悲鳴をあげてのけぞった。

「あっ、あ⋯⋯やめ、ばか、ああっ!うっ!」

首輪から赤い稲妻のような細い光が放たれ、ジークを包んだ。

ジークがその場に倒れ込み、身体をびくびくと痙攣させる。

それから、倒れたまま、掠れた声でナックルズを罵った。

「かっ、勝手に鎖を引っ張るんじゃねぇ⋯⋯うっ、ぶち殺すぞ、くそ野郎⋯あ、ううっ」

ナックルズは呆れてひざまずき、もう一度鎖を引っ張ってやった。

「あああっ!やめっ!あっ!ううっ!殺す!くそ野郎が!あっ!あうっ!」

ジークの首輪から再び赤い稲妻が走る。

ジークが半泣きになって痙攣し、のけぞった。

ナックルズは手を離し、苦い顔で言った。

「もしかしてこの首輪が、俺のせいで、おかわりでもらった分の咎か?こんなもんつけられてまで、お前は女神に尽くそうってのかよ」

ジークは涙目のまま、肩で息をしていたが、ナックルズの言葉を聞き、途端に険しい顔になると、胸に埋め込まれたクリムゾンプリズムの欠片に両手を当てた。

すると、ナックルズの胸に赤い光の渦が生まれた。

同時に激痛が走る。

「がああああっ?!あっ、あぐっ!ぐあああっ!」

今度はナックルズがのけぞり、悲鳴をあげて倒れた。

今度はナックルズの身体がびくびくと痙攣する。

ジークは息を上げながら、引きつった笑みで言った。

「勘違いしているようだがな。俺はお前を、物理的に、磁場関係的に、我が女神から引き剥がしてやった。だから女神の御威光が途切れたってだけだ。器の適合者に選ばれた事実が消えてなくなるわけじゃねぇんだよ」

ジークがようやく立ち上がり、ナックルズを見下ろした。

それから辺りを見回すような仕草をしてから尋ねた。

「シャドウはどこ行った。お前をこんなところに一人でやって、やつは一体何のつもりだ」

「シャ、シャドウは、俺がここに来てるって、知らねぇよ」

「何故だ?!」

「だって⋯⋯関係ねぇだろ、シャドウには」

「⋯⋯⋯⋯」

ジークの表情が再び険しくなった。

ジークがナックルズのドレッドロックをひっつかんで、強引に顔を持ち上げ、罵るような口調で言った。

「お前はあの時、呑気に毛布の中でぐーすか寝てたから知らねぇんだろうけどな。俺とシャドウは命を懸けて決闘したんだよ。お前の身をどうするかを巡ってな」

ナックルズが目を見張り、唇を強く噛んだ。

なんとなくわかってはいたが、自分の知らないところで、誰かが自分のために命を懸けていた。

ナックルズは自分で自分が許せなかった。

「俺は無様に敗北した。だからお前とシャドウを、二人そろって元の世界へ帰してやったんだよ。だから⋯⋯」

ジークはナックルズに顔を近づけ、にらみつけて言った。

「お前とシャドウは契りを結んだ。そうだろ?だったら、お前がここに花嫁として来てるのはおかしい。⋯⋯シャドウは何をやってる。あのヘド野郎。抱くだけ抱いて、お前を捨てやがったのか?」

ナックルズはジークの腕を振りほどき、慌てて弁解した。

「ち、契りって何の事だ。シャドウはいつも俺を助けてくれるんだ。それだけだ。でも今回は、俺が自分で決めて、自分でここに来た。シャドウを悪く言うな。あいつは本当に何も知らねぇんだ」

ジークの口が半開きになった。それから半目になって言った。

「命を懸けて助けた後、契りもなしに⋯⋯助けてくれてありがとう、どういたしまして、ってか?頭いかれてんのか、シャドウの野郎は」

「なんでだよ!これ以上シャドウを悪く言ったらぶっ飛ばすぞ!」

ジークは半目のまま首を傾けてナックルズを見やっていたが、ため息をついて言った。

「まぁ、文化が異なれば契りの結び方も異なる。敗北者の俺がどうこう文句を言うべきじゃなかったな」

「文句を言うならもっと自分のために言えよ。その首輪に対してとか」

「花冠かぶってコソコソ泣きべそかいてたお前に言われたくねぇんだよ!」

ジークに図星をまっすぐ突かれて、ナックルズは真っ赤になった。

一人で心細くて、部屋の隅でべそべそ泣いていたのが、涙の跡でばれている。

悔し紛れにナックルズはジークの鎖を引っ張った。

ジークがほぼ同時に素早く胸のプリズムに手を当てる。

「ああああっ!あっ!くそ野郎!あっ!んあっ!」

「あぐううう!うぐっ、あっ、う、ぐ、んううう」

二人は同時に倒れ、悶絶し、そのまま仲良く床に転がって気絶してしまった。


ナックルズとジークが仲良く神殿奥の部屋で転がって気絶するよりも少し前、ソニックとシャドウはカフェから出て、さっそく現地へ向かう準備をした。

ハビシュが二人に向かって説明する。

「僕はエージェント専用の別ルートで行くけど、二人はさっき送った座標のところで待機しててね。情報のやりとりは専用の秘匿サーバーでおこなう事。現地の合言葉は“キャラメルドリンクよりも、味がわからないアレ”」

「なんだそれ?」

「約束したんだ。ナックルズと」

「⋯⋯⋯⋯」

シャドウが腕をゆっくりと上げた。ソニックが制止する。

「やめろ、シャドウ。ハビシュ、ナックルズは⋯⋯」

「ナックルズがシャドウと飲んでる、島のフルーツジュース。ナックルズが僕に作ってくれる、飲むまで味がわからない、僕のためのジュース」

シャドウが険しい顔のまま、腕を下げた。

ソニックが少し眉を下げ、ハビシュに向かって親指を立てた。

「OK、“キャラメルドリンクよりも、味がわからないアレ” 。引き続き頼むぞ、ハビシュ」

「僕はやるよ。必ずナックルズを助ける」

「フン。行くぞ、ソニック」

青、黒、灰色。三匹のハリネズミは、赤いハリモグラの花嫁救出に向けて、コルタリア国に向かって動き出した。