第38話「コルタリアの花嫁 5」

月明かりの漏れる苔むした地下道を、青、黒、赤の毛並みが駆け抜けていく。

シャドウは、走りながらこまめにカオスコントロールで時空のきしみを確認する。

「方位磁石みたいだな」

「黙れ」

「この道は俺が通ってきた道だ。やっぱり、神殿にクリムゾンプリズムがあったのか」

ソニックが軽口を言い、シャドウが短く遮る。ナックルズは正面を見据え、神殿へ続く道を確認した。

地下道の終わりが見えて、三人は神殿内部へ続く階段を駆け上った。

階段が終わった先にある柱の隙間から振り向き、空を見上げると、上空に浮かぶ大きな魔法陣が、再び赤い光の束を一斉に吐いた。

「ひどい天気だな。神殿の土産コーナーで傘売ってないか?ビニール傘じゃあ、持ちそうにないけどな」

ソニックが眉をしかめながらも軽口を言った。

「上だ。急ぐぞ」

シャドウがカオスコントロールをしながら、頭を上にもたげた。

「おまえら、俺の背中に乗れ!」

ナックルズが拳を突き出して、壁のぼりを始めた。

シャドウとソニックはナックルズの背中にしがみついた。

ナックルズは拳を神殿の壁や柱にめりこませて昇り、どんどん高度を上げていった。

大きな月に照らされていたオアシスのような大庭園が、魔法陣の赤い雨に晒され、侵されていく様子が眼下に広がっていく。

「最悪の景色だな。乗り心地は最高だけど。ごつごつしてて、揺れまくる感じがさ」

「ナックルズ。疲れたなら、隣りの青いのは捨てていってもいいぞ」

「ご機嫌だな、究極の方位磁石様。浮かれて案内しそびれるなよ」

「浮かれてるのは君の方だ。ナックルズの背中でおねんねでもしてろ。僕が子守唄を歌ってやる」

ナックルズの背中にしがみついたまま、二人が早口で喧嘩を始めた。

「上に着くまでに仲直りしとけよ。できねぇなら、着き次第、俺も参戦してやるぜ」

ナックルズが振り向かずに、頂上を見据えながら言った。

ソニックは即座に黙り、シャドウに拳を突き出した。

シャドウは舌打ちをしながら拳を突き返した。

その時、背後から無人機が襲い掛かってきた。

ソニックが飛び出し、無人機を撃破する。

シャドウは無人機が射出した弾を弾き返す。

ナックルズは頂上にある広い空間へ、背中のシャドウを抱えたまま飛び込んだ。

「おらよ、到着だ!」

シャドウが背中から降り、ソニックが回転しながら着地した。

ナックルズは両拳を前に突き出して構える。

柱に囲まれた頂上の広間は、中央部分が大きな円形の祭壇になっていた。

中央付近に、赤い光の柱が何本も立っている。

かしずいて祈りを捧げていた暁の船団の神官たちが、三人の侵入者に気付き、慌てて立ち上がった。

シャドウは奥側にそびえ立つ、見覚えのある女神像を見据えていった。

「当たりだ。あれが暁の船団が信仰している、女神イオシスの石像。腹部にクリムゾンプリズム本体が埋め込まれているはずだ」

「ジークはどこだ?!てめえら、隠してないでジークを出せ!」

ナックルズが叫びながら、暁の船団の神官に飛びかかった。

シャドウとソニックも神官の制圧にかかったが、ほとんどの神官たちは、戦闘力がないためか、抵抗せずに座り込むか、あるいは、めいめい四方八方に逃げ始めた。

ソニックは端の方に立っている暁の船団の衛兵たちに向かって構えなおしたが、衛兵たちは諦観に染まり切った顔で形だけ構えているのみで、まるで戦意を感じなかった。

(衛兵はやる気なし。神官は儀式を放ったらかして逃亡か。もうめちゃくちゃだな)

ソニックは片眉を上げてため息をつくと、ナックルズの背後に立ち、警戒を続けた。

ナックルズが捕まえた神官が、焦点の定まらない目で笑いながら言った。

「もう遅い。“神託の魔術師”を生贄にした禁断の儀式が始まった。もう止められん」

シャドウは自分が捕まえていた神官を投げ捨て、ナックルズの捕まえた神官に近付き、低い声で尋ねた。

「どういう意味だ」

神官が笑いながら早口で答えた。

「このコルタリア国は、異世界より来たりし我らが女神の御威光を頼り、周辺諸国への戦勝を祈願した。我ら暁の船団は、これをもって創世の徴(しるし)となし、“女神の抱擁”をここに顕(あらわ)さんとす」

ナックルズが焦って言った。

「何言ってんだ、お前。ジークはどこだって聞いてんだよ」

シャドウが冷静に解説した。

「この国の連中が、異世界から来た暁の船団の女神信仰の教義を真に受けて歓迎し、現在乗っ取られかけているといったところか。ジークを生贄にして何かの術式を完成させようとしているという事だろう。つまり、ジークは今、この近くに⋯⋯」

ナックルズが、シャドウの言葉が終わるよりも早く、祭壇の中心部へ向かって駆け出した。

シャドウとソニックも後に続く。

中心部は赤い柱に囲まれてよく見えない。

ナックルズは柱を避けて、その内側に滑り込んだ。

赤い光の柱に囲まれた祭壇の中心部。

赤黒い金属質の柱の上部に、鎖で縛られ、磔にされたジークが眠っていた。

「ジーク!」

ナックルズが慌てて赤黒い柱に駆け寄り、ジークに話しかけた。

「おい、目を開けろ。俺だ、ナックルズだ!」

ジークは目を閉じたまま、ぴくりとも動かない。

毛並みはボロボロで、身体中痣だらけだった。

「こらぁ!起きろ、目を覚ませ、この野郎!」

ナックルズはジークが括り付けられている赤黒い柱を殴りつけ、根本から叩き折った。

シャドウとソニックが背後に駆け寄ってくる。

ナックルズは折れた柱を持ち上げて地面に置き、ジークの身体に何重にも巻き付けられた赤黒い鎖を、両手で無理やりバラバラに引きちぎった。

シャドウが急いでジークを抱え、身体中の異常の有無を確認した。

「脈も呼吸もある。骨折は見当たらないが、痣が多すぎる。痛みで気絶したか、あるいは薬か何かで⋯⋯」

ナックルズが苦しそうに顔を歪めて言った。

「鞭で打たれたんだ。俺のせいだ。きっと俺を庇ってたのが他の奴らにバレて、それで⋯⋯」

「⋯⋯ちがう⋯⋯ただの、儀式の、一環だ⋯⋯⋯⋯」

ジークがうっすらと目を開けて言った。

「ジーク!」

「お⋯⋯お前の問題じゃない。いいから、逃げろ⋯⋯⋯」

ナックルズが顔色を変えてジークに掴みかかろうとするのを、ソニックが慌てて制止した。ナックルズが構わず怒鳴る。

「相変わらず話が通じねぇ!俺たちはお前を助けに来たんだよ!」

ジークが震えながら首から上だけを動かし、やっとの事で言った。

「に、逃げろと、言ってんだ⋯⋯⋯⋯女神が、⋯⋯⋯来る⋯⋯⋯!」

瞬間、異様な気配が衝撃波のように背後から立ち昇った。

シャドウはジークを抱えたまま後ろに素早く飛びのいた。

ソニックがナックルズを庇うように、背後の気配に立ち向かって構えた。

ナックルズは、少し遅れて背後を振り返り、目を見張った。

背後にそびえ立っていた女神イオシスの石像が、赤く光りながら、大きく膨れ上がっていた。

不快な破壊音を立てながら、腹が大きく裂けていき、ざくろのような赤い中身があらわになる。

腹部の中央に埋め込まれていた真っ赤なクリムゾンプリズムは、腹の奥側にずぶずぶと沈みこんで見えなくなった。

女神像の両目と口が、奥側から真っ赤に光る。

女神像だったそれは、裂けた腹の中から飛び出す、蛸(たこ)のような赤く長い触手を広げて、宙に舞い上がった。

女神の口がまん丸に開き、こちらを向いた。

獣の声と金属音を混ぜたようなけたたましい不快音が空から降ってきた。

「ぐわああ⋯⋯!」

その場にいた全員が、不快音に耐えられず、しゃがみ込んだ。

同時に、女神の裂けた腹から、赤い光の束が発射された。

「避けろ!」

ソニックが叫ぶ。

弾けるようにナックルズとシャドウが飛び、赤い光がそこら中に突き刺さる。シャドウの腕の中で、ジークがうめくように言った。

「め、女神は、天と光をこのみ、闇をよしとしない。 ⋯⋯ち、地下へ逃げろ。雌伏の谷は、あくまで創世を待つ、試練の闇⋯⋯」

シャドウはナックルズとソニックに向かって叫んだ。

「状況を掴みきれない。一時撤退だ。地下道へ戻るぞ!」

ソニックが先陣を切って、ナックルズとシャドウを誘導する。地下道へ向かって、一気に壁伝いに駆け下りていった。

朝の光が少しづつ夜闇を溶かし、空に暁が侵食していく。

ソニック、ナックルズ、シャドウ。

神殿頂上の祭壇から飛び降りた三人は、動けないジークを抱えて、女神の放つ暁光に追われるように、地下道の暗い入り口の中に吸い込まれていった。


「ジーク!しっかりしろ!」

ナックルズの焦った声がコルタリア大神殿近くの、暗く湿った地下道に響いた。

シャドウの腕の中で、ジークが視点の定まらない顔でようやく口を開いた。

「⋯⋯う、腕⋯⋯お、俺の腕を、胸に⋯⋯⋯」

弱りきって、腕すら自分で動かせないらしい。

ナックルズがジークの腕を取り、胸元に当ててやると、胸に埋め込まれたプリズムの欠片が薄く光り、少しずつジークの傷が治り始めた。

やがて、ジークは不快そうに首をひねり、ようやくシャドウの腕から離れて立ち上がった。

ソニックがジークの身体を眺めまわしながら、感心して言った。

「へぇ、クリムゾンプリズムってのは、怪我を治す力があるのか。いくら怪我しても大丈夫って事か?なんかずるいな」

「こいつに限っては弱点だぜ。怪我が治るのをいい事に、怪我しないように過ごすって考えを、はなからぶち捨ててやがるんだ」

ナックルズが苛立ちのまじった声で、吐き捨てるように言った。

ジークは力なくナックルズをにらみつけ、それからソニックの方を見た。

ソニックが両手を上げて明るく挨拶した。

「ようジーク、俺はソニック。お前がエンジェルアイランドに遊びに来た時は、名乗る暇もなかったからな。治癒能力はないけど、マラソン勝負なら多分負けないぜ。よろしくな」

「お前たちの信仰する、あの女神イオシスというのは、何者なんだ」

シャドウが話の流れを切って、鋭く尋ねた。

ジークはシャドウの顔を少しだけ見た後、迷いもなく、淡々と説明を始めた。

「クリムゾンプリズムに巣食った、知的生命体。俺たちは女神と呼んじゃあいるが、超自然的な奇跡ではない。クリムゾンプリズムを操る上位適合者であり、あらゆる生物を遥かに上回る能力を持つ、上位構造体だ」

シャドウが思わずジークをまじまじと見た。

ジークの言葉は敬虔な神託者の神託ではなく、冷たい観察者の解説だった。

ジークはシャドウの目線に気付いたが、表情を変えずに説明を続けた。

「⋯⋯俺たちの世界が滅亡する前は、女神は概念として、ただ信徒たちの心の中で描かれるだけの控えめな存在だった」

「俺が三歳の時、俺の住んでいた世界は滅亡し、生存者はプリズムの力で次元の狭間に逃げ延び、次元の狭間の亜空間──雌伏の谷に隠れ住んだ。記録によると、そこからだ。女神の像がプリズム本体を包み込み、俺達に言葉を発して語りかけ、実在の神として御威光を顕現し始めたのは」

一呼吸して、ジークが三人を見た。そして表情を変えずに続ける。

「俺はすぐにクリムゾンプリズムの上位適合者として、胸にプリズムの欠片を埋め込まれた。託宣にて、“神託の魔術師”の座を与えられ、日々鍛錬にうちこんだ」

ジークは咳き込んで、口元を軽く押さえた。

胸のプリズムによる治癒能力も万能ではないらしい。

苦い顔をしながら続けた。

「⋯⋯結局その座も、ナックルズ。女神を顕現させるための正式な器である、お前を逃がした咎で、神官どもから取り上げられた。だから、我ら暁の船団がこの国へ乗り込んだ理由の詳細を俺は聞かされていない。ただ、重要拠点の護衛をしろとだけ⋯⋯」

ナックルズがゆっくりと息を吐き、尋ねた。

「さっきは、お前を生贄に、って⋯⋯」

「“神託の魔術師”の座を返還する見返りとして、神前にて信心を差し出せと言われた。“女神の抱擁”。大量の生贄の生命力と引き換えに創世をなす、女神イオシスの最終手段を、神官どもは選択した」

「神官どもは、俺の座⋯⋯“神託の魔術師”の座を軸に、そこから“抱擁”に選ばれた民を生贄とし、女神に生命力を吸い取らせようとしている」

シャドウが腕を組みながら冷たい声で言った。

「つまり、滅亡した世界を創世させるため、お前を磔にして、女神召喚の儀式を実行した。そして、召喚は成功してしまった」

その時、頭の後ろで腕を組んで話を聞いていたソニックが、素朴な疑問を投げかけた。

「でも、わざわざお前を鞭で殴ったのは、一体何の意味があったんだ?儀式ってより、まるでいじめみたいじゃないか」

ジークはソニックに向かってぐるりと顔を回し、目を泳がせた後、子供がピーマンを無理やり食べさせられたような顔になり、つぶやいた。

「じゅんびたいそう」

とうとうナックルズがジークの胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。

「結局儀式と関係ねぇ嫌がらせって事だろうが。そんなもん断れって言ってんだろ!」

「は、花冠被りっぱなしで偉そうに説教たれてんじゃねぇよ、断り知らずのまぬけ野郎が!」

ソニックが呆れたように肩をすくめた。

シャドウが半目になって質問する。

「外をうろついている、赤い光の苔に包まれた連中は、選ばれた生贄という事か?」

ナックルズの腕をふりほどこうとしたが、力及ばず、あきらめたジークは、ナックルズの腕に身体をぶらさげたまま力なく答えた。

「⋯⋯そうだ。正式な“器”を霊泉に捧げ、女神そのものを正しく顕現させた創世は、滅亡した世界そのものを正しく創世できる筈だが⋯“抱擁”を使った創世は、女神の顕現が完全ではない。別世界を上書きすることでしか創世をなすことができない」

ソニックの顔に緊張が走った。

「俺達の世界を上書きして、自分たちの世界をここに作っちまおうってわけか」

シャドウがジークの首を掴んで言った。

「なぜ抵抗しない!お前が生贄の立場を拒否して逃げれば、“女神の抱擁”は発動しなかったはずだ!」

ジークの胸倉を掴んでいたナックルズが、シャドウの腕を剥がして言った。

「シャドウ、やめろ、ジークは⋯⋯」

ジークがナックルズの腕にぶらさげられたまま、吐き捨てるように言った。

「俺の親父が世界を滅ぼした!俺が創世を成就させないといけないんだよ!殺したきゃ殺せ!俺を殺せば創世は失敗し、俺たちの世界は永遠の闇に沈む。お前らの世界も暴走した女神に破壊されて滅ぶ」

「俺を生贄に差し出せば創世は成し、お前らの世界は俺たちの世界に上書きされて新たな世界の美しき礎となる」

歪んだ笑みで、誰を見るでもなく叫んだ。

「どっちでも好きな方を選べ!俺は生贄だ。使い捨ての生贄の座。俺にもう意志なんかねぇよ!」

──その時。

シャドウが背後を振り向いた。

地下道の暗闇の奥の曲がり角から、赤い光の苔に頭を侵食された者たちが、ぞろぞろと足並みを揃え、不気味に行進してきた。

四人の前で立ち止まる。

頭に光の苔をつけ、立ち尽くすその人々は、全員、赤色で統一された兵装を身にまとっている。

暁の船団の衛兵たちだった。

ソニックがうんざりした顔で言った。

「見境ないな。信者のはずの自分のところの衛兵すらも生贄にしちまうのかよ」

シャドウが構えながら、目を細め、低い声で言った。

「他にも選択肢はある。生贄に選ばれた、この暁の衛兵たちを大量に殺せば、創世に使う生命エネルギーが足りず、創世は失敗し、僕たちの世界も上書きはされないはずだ。その後、女神も殺す。お前の命は、ナックルズの意志に免じて見逃してやる」

ジークが血相を変えてナックルズの腕を振りほどき、転がるように衛兵の前に飛び出した。

「こいつらは悪くない。女神の御威光に逆らえないだけだ」

「都合のいい解釈を!」

「びびってんじゃねぇよ!文句があるなら俺を殺せって言ってんだ!」

シャドウがジークを掴み、左手で手刀を構えた。

ジークが胸のプリズムに手を当てようとしたその時、

ナックルズが二人を体当たりで吹っ飛ばした。

シャドウとジークは、仲良く転がり、奥の壁にそろって激突した。

ソニックが笑いながらまわりの衛兵に器用に当身を入れて、次々と気絶させていく。

「ナックルズ、何を⋯⋯」

シャドウが不満げにうめいて起き上がった。

ジークはひしゃげて壁に張り付いて痙攣したまま、動かない。

シャドウがジークを覗き込み、呆れ顔でジークを無理やり引っ張り上げ、立たせた。

ナックルズがゆっくりと歩いてジークに近寄り、まっすぐな声で言った。

「ジーク。お前は、何が欲しい?」

ジークが振り向く。

疲れて、諦めたような顔でナックルズを見上げた。

「俺はもう、なにも⋯⋯」

「お前の欲しいもの。言ってみろよ。わかってても女神を信じようとしたのは、ずっと欲しいものがあったからなんだろ」

ジークの顔がふにゃりと歪み、子供のような顔になった。

「言えよ」

静かに立ったまま、ナックルズは待った。

ジークの目が地面を彷徨い、力なく揺れる。

それから、狭い地下道に、小さなすすり泣く声が響いた。

ナックルズは待った。

ジークが顔をぬぐい、ようやく小さな声で言った。

「み、みんながしあわせになれるせかい」

ナックルズが一歩前に出て尋ねる。

「みんなってのは誰だ?」

「おれいがいのぜんいん⋯⋯」

「じゃあ女神を壊す。ここにいるみんなでだ」

ナックルズの答えに、シャドウの瞳が光った。

ソニックは黙ってナックルズを見つめている。

ジークが焦って言った。

「駄目だ。女神がいなくなったら、二度と創世ができなくなる。滅亡を生き延び、雌伏の谷で、今も怯えて隠れ住んでいる者たちの希望が消える。あいつらの生きる意味すらなくなってしまう」

ナックルズは拳を突き出して言った。

「それはその時考える。いいか、諦めるんじゃねえ。やれることをやる。俺も一緒に考えてやる。あのふざけた女神をぶっ飛ばした後でな」

ナックルズは、そのまま振り返り、神殿へ向かって走り出した。

シャドウが迷わずそれに続く。

ソニックがジークの元へ駆け寄っていき、軽く肩を叩いた。

「疲れたならここでひと眠りしててもいいぜ。安心しろよ。起きる頃には、俺たちが⋯⋯」

「やかましい。⋯⋯そう簡単に行くか!生贄の軸たる俺を失った女神は暴走のフェーズに入った。この世界がまるごと破壊されるぞ。いいからとりあえず俺を差し出せ!」

言うが早いか、ジークはソニックの手を振り払い、ナックルズを追ってフラフラと駆け出した。

ソニックが呆れてジークに追いつき、横から話しかけた。

「ナックルズに負けず劣らずの石頭だな。切り替えていけよ、お前はもう一人じゃないって」

「なんの話だ!もう夜明けが来る。女神イオシスは暁の女神。夜が明けたらもうお前らの手になんか負えるものか。ゲンコツひとつで勝てる喧嘩じゃ、うわっ」

「だったら急がなきゃな。つかまってろよ、超特急で行くぜ」

ソニックはジークを肩に抱えると、音速で地下道を駆けていった。

そのままナックルズとシャドウに追いつき、神殿へつながる階段を昇る。

淡い朝日が四人を包み始める。

もうすぐ夜が明ける。

暁の予感を胸に、四人は女神を見上げ、神殿へと向かった。